ある不動産会社は、何も知らない客に、フロリダの田舎の、ワニが繁殖している湖の畔や、ジャングルに覆われたハワイの溶岩地帯、パラシュートでしか近づけないアリゾナの山岳地帯など、正気の人間なら絶対に手を出さないような土地を売って、一財産成した。

 立川基地は、いわば詐欺師の実験台だ──まずアメリカ人をだましてみろ。シャツのしわを伸ばし、そこらの水を名水といつわれ。日本人を“料理”して、たんまり儲けるのはそのあとだ。

服役した後もコーンフェルドは
ビヴァリー・ヒルズで贅沢三昧

 立川空軍基地と、その兄弟分の横田空軍基地をターゲットに、荒稼ぎしたグループがいる。グローバルな投資信託会社、〈IOS〉の経営陣である。1960年代の終わりには、総資本を20億ドルに膨らませ、世界有数の国際金融機関へとのし上がった。

 創設者兼CEOのバーニー・コーンフェルドは、億万長者となり、サウジの王様なみの豪勢な暮らしを楽しんでいた。

 IOSが東京の〈東京メソニックビル〉に本店を構えたのは、1962年のこと。彼らは手始めに基地を席巻し、さらに全国へと手を広げながら、IOSの株を売りまくり、日本人、アメリカ人を問わず、セールスの仕事を斡旋した。

 彼らのバイブルは、コーンフェルド著のベストセラー『Do You Sincerely Want To Be Rich?(本気で金持ちになりたいかい?)』。

立川空軍基地は「詐欺師の実験台」だった!日本人が知らない異端児たちの戦後史『新東京アウトサイダーズ』(角川新書) ロバート・ホワイティング 著、松井みどり 訳

 ところがやがて、大規模なネズミ講であることが発覚。世界中の数万人の投資者が持ち金を失った。コーンフェルドを愛するだまされやすい人間に、国境はないことが証明された。東京の投資家たちは、大半が金を取り戻せないまま、破産に追い込まれ、従業員たちも、給料と仕事を同時に失って、路頭に迷った。怒った顧客に雇われた、筋肉隆々のヤクザが、東京のIOS販売代理人宅に押しかけて、金を返せと詰め寄る始末。ついには大蔵省が、業務停止を命じる事態に。

 1970年代初めに、IOS帝国は崩壊し、コーンフェルドはスイスの刑務所に、1年間放り込まれている。とはいえ、自分の財産はしっかり確保し、ビヴァリー・ヒルズで贅沢三昧。リズ・テイラー、ウォーレン・ビーティ、リチャード・ハリスなどの映画スターたちと、親交を深めた。