算数は生活能力、数学は解決能力

 先の「掛け算の順序問題」は極端な例になってしまっていると思いますが、筆算や鶴亀算に代表されるように、算数では教えられた型に従って早く正確に答えの出せる子どもが成績優秀になります。

 なぜならそもそも算数は生活に必要な能力を磨くためのものだからです。特殊算は中学受験における差別化のためのものだとしても、筆算や分数、割合、比、面積、濃度、平均……などに関する知識と理解が社会生活を送るうえで必須であることは大人の皆さんが御存知の通りです。
 「今日は3割引だよ!」
 「ポイント還元20%!」
 「この土地は坪単価80万円です」
 「本日の日経平均の終値は12,435円です」
などなど……。これらの言葉の意味が(できれば瞬時に)わかるかどうかは生活に直接影響してきます。

 以上の理由から算数では、

やり方を覚える
 ↓
反復練習を行なってスピード上げる

という勉強法が中心になりますし、それが効果的であることも否定しません。

 でも数学は違います。またも少々語弊があるかも知れませんが、数学は生活のために学ぶものではありません。数学は物事を論理的に考えられるようになるために学ぶものであり、未知の問題を解決する能力を磨く学問です。ここが「見たことがあるパターンの問題を解ける力」を求めている算数との決定的な違いであると私は思います。目的がまるで違うのですから算数と数学では勉強法が異なるのは当たり前なのです。

 6年間算数の勉強に慣れてきた子どもが数学の教科書を見たとき、そこに例題があって、解法が枠線で囲まれて強調されていると、ついつい算数と同じノリで「こういう問題はこういう風に解くべし!」という解法パターンの暗記に陥ってしまいます。しかし、数学の場合はその1つの解法から広範囲に通用する問題解決のための方法論を抽出できなければ意味がありません。いくら類題を解法に当てはめて解いたとしても、未知の問題を解けるようにはならないからです。

 MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏があるインタビューの中で次のように話されていました。

“世界の変化のスピードがこれだけ速くなると、〈地図〉はもはや役に立たない。必要なのは〈コンパス〉です。そして素直で謙虚でありながら権威を疑うことなのです。”

 現代社会においては、決まりきったことを決まりきった方法で行なうルーティンワークがこなせることは高く評価されません。なぜならそのような作業は多くの場合、コンピュータを使って自動化することができるからです。あるいは人の力が必要な場合でも、典型的な事例を典型的に処理することはマニュアル化できますので、安い賃金で得られる労働力に任せられてしまいます。

 その一方で、現実の社会では次から次と新しい問題が目の前にやってきます。この新しい問題を解決する力こそが私たちには必要なのです。未知の問題の解決に向けての指針、伊藤氏の考えで言えば「コンパス」を持つことが、変化の速い現代社会ではなお一層求められてきています。そしてこれは数学を学ぶうえで目標とすべきところに完全に一致しています。

 ではどのように数学を勉強したら論理力を磨き、未知の問題を解決する能力を育むことができるのでしょうか?
 その1つの答えとして私は前著『大人のための数学勉強法』の中で、算数とは違う数学の勉強のコツを書きました。これまでの指導経験で得たノウハウを結集したものです。どうぞ買って読んでください……というのは、あんまりなので(あ、でもご興味のある方はぜひお読みください!)、以前、ダイヤモンド・オンラインで執筆したダイジェスト版、「数学ができる人の頭の中――どんな問題も解ける10のアプローチ」をご紹介します。

 またこの連載の後篇では、「10のアプローチ」と対になる「7つのテクニック」もご紹介しますので、ご期待ください。

次回は4月18日更新予定です。


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