ニーチェは目指すべき人としての姿を、「人間的」な弱さを乗り越えるという意味の「超人」という概念で示し、そこへ到達するには「駱駝」「獅子」「幼子」の3つのプロセスを経て成長していくと述べています。

「駱駝」は、重い荷を背負って歩く動物ですので、これは既存の権威や社会的な規範に従いながらも、それにより己を磨いていく人生の時期を象徴しています。学校や塾へ行って勉強をしたり、受験のために遊びを我慢したりして自己研鑽する時期と考えてもいいでしょう。

「獅子」は、経験を積んで自立する強さを身につけ、必要であれば目の前の規範や体制に反意を突きつける勇気を持っている段階です。

 社会人であれば、仕事上のスキルをしっかりと身につけ、会議などで上司や同僚とも議論を戦わせることができる会社員というところでしょう。

 唯々諾々と周囲に従うのではなく、必要なときは獅子のように強い意志を示すことができるというステージです。

 最後が「幼子」です。これは、既存の権威を否定してむやみに抗うのではなく、幼子のようにイノセントに受け入れながら、自発的に楽しみ、その上に新たな価値を創造していくというイメージです。

 人生を3分割した最終段階、すなわち今の時代でいう60歳以降は、既存の権威も柔軟に取り入れ、新しい価値を創造できる人であるということができます。

 クリエイティブな心を発揮すべき時期が60歳からなどと聞くと、これからの人生の終盤が俄然ポジティブに感じられ、ワクワクしてくる気がします。

 60歳過ぎから新しい趣味を始めてみて、数年後にそれがプロ並みの腕になってしまい、ビジネスに発展してしまうような人も世の中にはいます。ニーチェ的な発想では、それもじつに自然なことであるといえます。

社会的な「通信簿」を気にしない
肩書きなしでいかに生きるか

 働いていれば世間から一定の社会的評価を受けることになります。名の通った企業に就職し、順調に出世して周囲から一目置かれる人もいる一方、期待した評価を受けられずに50歳に至り、定年までの10年をどう過ごすかで悩む人もいるでしょう。

 また、高校の同級生の年収がどのくらいで、最近開かれた同窓会で周囲が彼をどう評価したかなど、気になって仕方ないという人もいるかもしれません。