自分を守るための「不義理のすすめ」

 ところが、コロナ禍で、パーティや懇親会、打ち上げ等、不特定多数の人が集まる場に行く機会が皆無になった。

 不特定多数の集まる場に行かない、親しくもない人とは会わない。それだけでストレスが減ったことに気づいた。

 そうこうしているうちに心不全で倒れて入院し、原因は高血圧と診断された。

 再び発症しないために、生活習慣を変えたのと同時に、ストレスをとにかく減らそうと誓った。

 ストレスは血圧に直接反映される。ストレスで人は病むし、死に至る。

 だから生活習慣だけではなく、一番大きくストレスをもたらす人との付き合い方も改善しようと思った。

 当初は「風邪を引いても重症化する」と言われ、人と会うリスクが増えた。病気は大変で、しんどいことではあったけれど、「本当に会いたくない人とは会わない」と決めた。

 人づきあいが悪いと、皆に言われる人になろう。

 不義理をしよう。

 だって私は人と会うことにリスクが伴うのだから。

 今はだいぶ健康を取り戻しはして、普通に暮らしてはいる。

 世の中も元通りになっているかのようではあるけれど、相変わらずつきあいが悪い人として生きている。

 それが仕事の面でマイナスになることもあるのは、知っている。

 マメに人が集まる場所に顔を出して交流を広げてつながるほうが、仕事のプラスになるかもしれない。そんなチャンスをきっと逃している。

 でも、もうそんなに若くもないのだから、人と接するストレスよりも、心穏やかでいることを優先したい。

 社交的な人が羨ましいと思うことはよくあるけれど、自分ができないことを傷ついてまでやるもんじゃない。

 一度、倒れて心臓が止まりかけ、リスクを背負うようになってしまったからこそ、身体の健康と同じぐらい、心の健康を保ちたい。

 もちろん、「嫌な人には会いたくない」といっても、そういうわけにはいかない場合も多々ある。

 けれどできるだけ、そんな時間は少なくして、大切な人や好きな人と会うこと、何よりも自分ひとりでゆっくりする時間を持つことを心がけている。

 まだ50代でしょとも言われるが、人間はいつ死んでもおかしくない。

 残り時間は限られているというのが身に沁みたからこそ、一秒たりとも、私を傷つけるものに近づきたくないのだ。

 だからSNSでも、ネガティブになりそうな発信をする人は片っ端からミュートもしている。

 人づきあいの悪い生活を、寂しい生き方だと思う人もいるかもしれないけれど、コロナ禍以降、そして病気を経た今の暮らしは、私にはとても快適だ。

 すべて、心が死なないために。

 心が死んだら身体も死んでしまうのは、身をもって知ったから。

花房観音(はなぶさ・かんのん)
小説家、バスガイド。1971年、兵庫県豊岡市出身、現在京都在住。京都女子大学中退後、さまざまな職を経て、2010年に第1回団鬼六賞大賞を『花祀り』にて受賞。性愛、ホラー、ミステリー、怪談、時代小説等を著書多数。ミステリー作家・山村美紗の謎の生涯を追った『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』等、ノンフィクション作品も執筆。2022年に心不全にて緊急搬送された経験をもとに描かれたエッセイ『シニカケ日記』も話題に。