青春期に孤独を感じた人が読むと、百発百中やられる本

井上 いや、素通りできなかったですね、この本は。青春期に孤独を感じたりとかした経験がある人が読むと、まあ百発百中やられるんじゃないかな、という気がしますね。絶対読んだ方がいい本だと思います。でも覚悟して読まないと、なんか本当に開いちゃいけない扉が開く…。やっぱり一人称を「君」って書いてるのが、これはもうそういう本なんだなっていう。そこはかなり意図的だったんですかね?

青春期に孤独を感じた人が読むと、百発百中やられる本とは?井上新八(いのうえ・しんぱち) ブックデザイナー・習慣家
1973年東京生まれ。和光大学在学中に飲み屋で知り合ったサンクチュアリ出版の元社長・高橋歩氏に「本のデザインしてみない?」と声をかけられたのをきっかけに、独学でブックデザイン業をはじめる。大学卒業後、新聞社で編集者を務めたのち、2001年に独立してフリーランスのデザイナーに。自宅でアシスタントもなくひとりで年間200冊近くの本をデザインする。趣味は継続。それから映画と酒とドラマとアニメとちょっぴりゲームとマンガ。あと掃除とダンスと納豆。年に一度、新宿ゴールデン街で写真展を開催している。最近、短歌をはじめた。書籍の帯を広くしてたくさん文字を掲載する、棒人間(ピクトグラム)を使う、カバーに海外の子どもの写真を使う、和書も翻訳書のように見せる、どんなジャンルの本もビジネス書風に見せるなど、主にビジネス書のデザインという小さな世界で流行をつくってきた。著書に『続ける思考 「やりたいこと」も「やるべきこと」も全部できる!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 撮影:中里楓

阿部 まさに、「私」や「僕」という一人称ではなく、あえて「君」という二人称で本編が進んでいくのがこの本の特徴で。新八さんの書籍の中でも、文章の書き方を「僕」にするか「私」にするかで感じ方が変わると書かれていたと思うんですけど、「君」と書くことで、読んでいると語りかけられているように感じる魔力があるんだなと。編集者の方との話し合いの中で「君」にしようとなったんですけど、この書き方にして本当によかったなと思っています。

井上 ですね、この「君」にやられました。おっしゃる通り人称で印象って本当に全然変わるんだなということを感じましたね。

阿部 自分自身のことをなんと呼ぶか、相手のことをなんと呼ぶかで、自分の書くものの性格を決めてしまいますね。

井上 本当に文章のテンションってすごく大事なんだなって、本を書きながら思いました。『あの日、選ばれなかった君へ』で、時々克明に記憶や景色を書いていらっしゃいますが、日記とか書いてるんですか?

阿部 日記を書く習慣はないんです。ただ、当時のカメラロールを見直したり、短いフレーズだけれど、そのときの感情や記憶を込めたツイートとかを見直したりして、思い出を引っ張り出している感じですね。

井上 日記ではないけど、自動的に記録をつけてるんですね。そうすると、いまSNSやってる人は、自動的にそういうのが残ってるってことですよね。

阿部 まさにそう思います。かつて僕はmixiもやっていたんですけど、恥ずかしくもありつつ、当時の出来事を鮮明に思い出しますね。

井上 mixiの日記、載ってましたもんね、本の中に。

阿部 そうなんです、あの日記があることで、葛藤を乗り越える姿がよりリアルになりました。普段から習慣として書いていたものが後から活きることを実感しましたね。井上さんの『続ける思考』を読んで、僕がいま続けていることは何かなって考えたんですけど、僕はコピーライターという仕事を15年以上やっているんですけど、連続講座の「企画でメシを食っていく」はもう10年続いています。

井上 10年は大きいですね。

阿部 10年というと、当時中学生だった人が、いまはもう社会人で頑張っている年月ですからね。

井上 あー、確かにそうですね。

阿部 最近、10年前の仕事を人に話したら「私が高校生のときですね」と言われて。月日の流れをすごく感じましたね。

井上 うんうん、10年続けると、いろいろなドラマがそこに生まれますね。

阿部 続けることはドラマを作りますね。