延命治療をどうするかというきわどい状況下で、正常に判断・会話できる状態にある患者さんは多くありません。そして残念ながら、家族による意思が結果として患者さんの意に反してしまう場合もある、ということも言わざるを得ません。
 つまり、その患者さんの最期が、患者さん本人が望む死ではなく、家族が望む死となるケースが多いのです。
 人工呼吸器に関しても、いったん装着すると、外すタイミングに悩みます。家族が外さないでくれと言えば、現場の医師にはなかなか外せないでしょう。

 私の父は、心不全を起こして病院に担ぎ込まれ、その後一度は容態が安定したように見えたものの、数日後に急変し、知らせを聞いて私が駆けつけた時には臨床的脳死状態でした。
 体にさまざまの生命維持装置をつけられ、ベッドに横たわる父の姿を見て、母はすべてを悟った様子でした。
 母は、私に父の状態を尋ねた後、驚くほど何の迷う様子もなく、
「本人の意思なので、(担当の先生には)もうけっこうです、と伝えてくれる?」と言いました。
 父は、医者嫌いで重体になるまで決して病院に行こうとはしなかった人でした。長く心疾患を患っていた父は、前年に自分の死後の手はずを母に話していたのです。
 そのせいなのでしょうか、担当医に意向を伝え、これまでの尽力にお礼を述べた母には、まったく未練のようなものが感じられず、淡々と父の死を受け入れているように見えました。

あの世での幸せのコツは「執着」を手放すこと

 もし、お別れの時期を意識しだしたら、ぜひ早めにやっておきたいことの一つに「身辺整理」があります。
 この作業は非常に大切な作業です。生きていると、誰しも多くの「執着」を持ちます。執着はあの世に還るまでに少しずつ捨てないと、あの世でうまく生活するのが難しくなります。
 この世への執着が強いと、いわゆる未浄化霊(浮遊霊)として残存する可能性が高まるともいわれます。あの世で楽しく生活するためにも、まずは自分が長年持ち続けている執着を手放すことから始めてください。身辺整理は執着との戦いなのです。
 最初に「いらない物リスト」や「死ぬまで必要な物リスト」を作ってみたらいかがでしょう。
 ちなみに後者は、生活する上で最低限必要なものだけのリストです。

 亡くなった私の母も、その昔父が亡くなった後、すぐに家を売り払おうとしました。私と弟は判断のあまりの速さに驚いたものです。
 結局、弟と私が時々訪れるためということで家を残してもらうことにしましたが、母はさっさと家を出て、一間の賃貸アパートへと引っ越しました。立って半畳、寝て一畳という質素な生活で、晩年の母は満足していました。何に対しても、「必要ないのよ」と笑って答えていました。

 次に、もしもあなたが大切な人、身近な人を送らなければならなくなった場合に知っておいてほしいことの一部をご紹介します。