高齢者への“貸し渋り”で、老後の住まいを失う「漂流老人」の存在が問題となっている。特集『終の住み家の選び方』(全21回)の#8では、数々の賃貸トラブルを解決してきた司法書士の太田垣章子氏が、問題の本質を、実例と共に解き明かす。必ずしも貸さない家主ばかりが悪いわけではないようだ。
高齢者への“貸し渋り”
その真因と解決策を探る
大手企業を勤め上げ、資産がある方でも、身内が近くに住んでいる方でも、「高齢者」ということで部屋が借りられない――。
70歳を超えると、賃貸物件を借りることが非常に難しくなります。仮に「自宅を売って賃貸に住もう」と思っても、つまりいくらお金があっても、高齢者だというだけで相手にすらしてもらえません。
私は司法書士として、これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の物件明け渡し訴訟の手続きをはじめ、賃貸トラブルに接してきました。その経験から、なぜ高齢者への“貸し渋り”問題が起きるのか、貸す側、借りる側、双方の立場から考え、どうすれば「漂流老人」問題を防げるのか、解決策を探っていきます。
親の代からのアパートを1年前に引き継いだ加藤誠さん(仮名・52歳)。2階建の木造アパートは築60年を超え、全6戸のうち1階の1戸しか埋まっておらず、残りの5戸は空き部屋となっていました。2階への外階段は鉄部分が錆びて、下から見上げると穴が開いて空が見える部分すらあります。
加藤さん自身はアパート経営に興味はなく、大地震があれば倒壊しそうなこの建物を持て余していました。隣地との余裕もないため足場を組んでの補修もできず、室内からの耐震補強をしようとしても時すでに遅し。外壁もかなり劣化しているため、建て替えと同じほどの費用がかかってしまいます。
倒壊する前にとにかく取り壊したい、自分の貸している物件で死者を出したくない、その思いが日に日に強まっているような印象です。何とか入居者に退去してほしいと、立ち退き交渉のご依頼を受けました。
次ページでは、このアパートに20年近く住んでいる73歳の男性との立ち退き交渉と、難航した引越し先探しの話をします。しかし、高齢者への“貸し渋り”問題は、必ずしも貸さない家主が悪いわけではありません。