数メートル離れたところにある
「二つの商店」に通う日々

 私の担当ルートには古くからの商店街があり、そこから少し離れたところにもぽつりぽつりと小さな商店が点在しています。こういったお店はかなり高齢の方が細々とやっているところが多く、小さなクーラーを置いて、ちょっとした雑貨や駄菓子と一緒にウチの飲料も置いてくれています。

 お爺さんが一人でやっている山本商店もそんなお店の一つでした。当然ながら売り上げも多いとは言えません。

 それでも大切なお客様ですから毎週の訪問は欠かせません。店から少し離れたところにクルマを停め、「今日はいかがですか」と軒先から声を掛けます。

「やぁ、いつも大変だなぁ。今日は注文がないけどちょっと座っていかんか」と。それではと店に入り、店内の丸椅子に腰を掛けます。「どうですか、そろそろ自販機でも置いてもっと楽に商売をしませんか」などといつもの通り軽く声を掛けます。

「いやぁ、わしも歳だし、そこまでしなくてもぼつぼつお客さんも来てくれるからこのままでいいよ」

 訪問のたびに売り込んではいるもののなかなか色よい返事は聞かれません。

「そうですか。でもよろしければ考えておいてください。お店にとっても良いお話だと思います」

 年老いた店主は軽くうなずくだけです。

 山本商店と数メートル離れた道沿いに細木商店という同じようなお店があります。こちらも老夫婦が細々とたばこ店を営んでおり、その脇でちょっとした雑貨や食品も取り扱っていますが、私たちの商品の売れ具合も大差はありません。

 そんなある日、細木商店を訪ねたところ、ご夫婦がどこかの業者とカタログを挟んで真剣な面持ちで話をしています。様子を窺うと、どうやらたばこの自販機を新しいものに切り替えるようです。しばらくすると話がまとまったのか「それでは、来週には設置できると思います」とその業者は丁寧に頭を下げて出て行きました。