山本商店の主人が
ぽつりと言った言葉

そのとき、山本商店の主人がぽつりと言った言葉がいまでも忘れられません。
「泣く子も目を見る」
その場では言葉の意味がわからなかったので、営業所に帰ってどういうことを言っているのか調べました。
「泣いている子でも、目をあけて周囲の状況を見るものだ」といった状態から、「いくら思慮分別のない者でも、少しは時と場合を考えて振る舞うものだ」ということわざでした。それが私に向けられたものなのか、ご主人が自分に向けて言ったものなのか、いまでもわかりません。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、営業は自分たちの商品を通して人に幸せになってもらうことが仕事の目的だと思います。入社してからずっとそう教えられてきて、自分でもそう思っています。
しかし「売る」という姿勢ではそれを叶えることは難しいのではないかと思います。一方で、「買っていただく」という姿勢で自分たちの営業をどう進めていけば良いのかについても明快な答えは見つからないままです。
私が細木商店に自販機を売ったこと。それは自分たちにとっては当然のことです。しかし、喜ばれるお店と悲しませるお店をつくってしまった現実があります。ものごとはさまざまな矛盾を抱えながら、そのときどきの折り合いをつけて進めざるを得ません。
それでも考えながら仕事を進めるようになりました。それは「売っているのか」それとも「買っていただいているのか」を常々考えることです。