以前、企業研修を行った際、受講生のなかに日々のクレーム対応が原因で心身に不調をきたし休職を余儀なくされ、ようやく職場に復帰したばかりという方がいました。「体調は良くなった」とは言うものの、その顔には表情がなく、本当に辛そうでした。

 また別の企業の研修では、私がロールプレイング中に大声を出したとき、ビクッと体を硬直させた受講生がいました。

 気になって、研修後に声を掛けると、「お客様に電話口で怒鳴られてから、大きな声が苦手になってしまって……。先生は何も悪くないのにご不快にしてしまい申し訳ありません」とまさかの謝罪をされてしまいました。

 これらはほんの一例です。

 ハードクレームやカスハラが増えたことで、どのような状況になっているかというと、クレーム対応に心が疲れてしまう現場スタッフが増え、先ほどの方のように休職したり退職してしまったりする人が急増。なかには担当者が自殺してしまったケースもあります。

 ひとたび心を患えば、回復までにはかなりの時間を要しますし、完治しないケースも多く聞かれます。従業員をそのような状態に追い込み、企業として対策をしなかったとなれば、組織の社会的な信用も落ちていきます。

 また、稼働していない休職期間中のスタッフに対する補償、一時的な人材の補填、在職中のスタッフのフォローなど、組織にとっては頭の痛い問題が山積みとなります。

 さらにクレームによって、それがたとえ理不尽な言いがかりであったとしても、企業の評判が落ちて顧客が減ってしまったり、対応が上手くいかなかったことで悪評が広まり、倒産に至った組織もあります。

 現場のスタッフと組織を守るために断固として戦わなくてはならない問題となっているのです。