クレーム対応に喜び
「上顧客」と呼べる存在に

 この古本店では、本の価値を1冊ずつ調べて値段を付けるのではなく、本の状態を基準として買い取り価格を決めることになっていました。そのため、どんなに貴重な本であっても、破損・経年劣化が激しいものは、買い取ることができません。

 お客様がお持ちくださった本のほとんどが、古本店のルールでは買い取り不可となったことから、スタッフは、ご高齢の方にこんなにたくさんの本を持って帰っていただくのは大変だろうと考え、親切のつもりで「こちらで処分」を申し出たのでした。まさか、お客様の逆鱗に触れるとは思ってもみなかったでしょう。

 これはとても不運なクレームでした。

 ですが実際、クレームは、お互いの認識のちょっとしたズレで起き、対応の仕方で、その明暗が大きく分かれるのです。

 私はお客様の想いを汲んで、処分するのではなく、お預かりして、引取先をお探してもいいか、伺いました。

 お客様がご了承くださったので、翌日からさっそく役所や児童館、図書館などに相談したところ、近所の保育園が全ての書籍を受け入れてくれることが決まりました。

 この結果をご報告するとお客様はとても喜ばれ、店の大ファンになってくださいました。

 本を買い取ることができなかった理由も理解してくださり、「むしろそういうシステムとは知らず、あのときは怒鳴って迷惑を掛けた」という謝罪の言葉もいただきました。

 それ以降、店をたくさん利用してくださり、ご友人を紹介してくださるなど、「上顧客」と呼べる存在になっていったのです。

 誤解が解けたことで、最初に対応したアルバイトのスタッフともにこやかに話す場面を何度も見掛けました。一番、うれしかったことです。

 最近、カスタマーハラスメントが社会問題になっています。

 このお客様のケースも「大声で怒鳴っている」「土下座を強要してくる」という言動だけに注目すればカスハラ案件にも思えます。

 しかし、お怒りに込められた本当の声を聞こうともせず、追い返していたらどうなっていたでしょう。

「あの古本屋は、客を馬鹿にしてくる」などと悪評を流されたり、対応したアルバイトのスタッフにとって大きなトラウマになったりしたかもしれません。

 このようにちょっとした対応の違いで、結果は大きく変わるのです。