このように私たちには、大人になった瞬間から多くの規制がかかる。子どもの頃は、大人は背が高く、力も強くて、やりたいことを何でもできそうに見えた。だから早く大人になりたかった。ところが実際に大人になってみると、そういうことはなかった。

 世間はやりたいようにやれと言いながら、いちいち茶々を入れてくる。人に自慢できるようなカッコいい人生を送りたい?だったら頑張ってお金を稼げ!という具合だ。そのため、人は待ちに待った大人になると、今度は子どもの頃を恋しがり当時に戻りたがるのである。

「大人」の縛りから逃げたいけれど
不甲斐ない大人にはなりたくない

 なぜ私たちは大人に対し、これほど多くを期待し重荷を課すのだろう?実際いくら大人でも、すべてにおいて知識と責任を持ち、失敗や心の乱れを一切なくして、あらゆる面で合理的になれる人はいないものだ。

 大人といえど隙もあれば失敗もある。そもそも人間である以上、どんなに年齢を重ねたところで感情の影響は免れない。大人だって泣くことはあるし、怖くて震える時もある。大人にだって「子どもっぽい面」というのはあるものだ。

書影『「大人」を解放する30歳からの心理学』(CCCメディアハウス)『「大人」を解放する30歳からの心理学』(CCCメディアハウス)
キム・ヘナム 著

 それでも私たちは子どもの頃に描いた「理想の親像」を「大人」という言葉で上書きする。どんな状況でも揺らぐことなく自分たちを守ってくれる頼もしくて完璧な親の姿を、大人という存在に期待するのだ。

 そうは言っても世の中に完璧な人などいない。だから私たちは「大人なら大人らしく」という言葉に戸惑うのだ。歳月の分だけ年を取ったというだけで、自分を大人だとは認識しておらず、今もまだ子どもの気分でいるのである。

 一方で人は、ふがいない大人にはなりたくないとも考えている。その結果、私たちは「大人」という言葉の重さに押しつぶされ、身動きが取れなくなるのだ。