人間がやっていた分析を
AIはより高精度で実現できる

金融・保険業界の仕事は「AIに代替される」可能性大!AI研究者が警鐘を鳴らす理由とは10年後のハローワーク』(川村秀憲 著、アスコム、税込1650円)

 こうした状況に、AIはさらなる大きな変化をもたらします。

 これは、受付や質問の回答をAIのチャットボットが行うような例だけに限りません。金融業の本質は、業務の効率化やIT化以上に、貸出先や投資先のリスクとリターン、保険の引き受け条件や、さまざまなマーケット情報の分析にあるからです。

 AIはその分析の作業を、極めて迅速かつ正確に行います。決算はデータ化できますし、取引先や事業分野ごとの詳細もまた同様です。金融はもともと確率を追い求めるビジネスだと言えますが、それこそまさにAIの得意分野です。あとは、融資するかしないかの決定を行うだけです。

 銀行だけではありません。融資先の信用力がAIによる安価で確度の高い分析で見定められるならば、銀行を通さずに高い利回りを狙って行うソーシャルレンディングなどの直接金融が一段と発達しやすくなり、銀行の領域をいっそう侵食する可能性もあります。

 同じことは、保険業界でも言えるでしょう。

 そもそも保険を引き受けるかどうか、あるいはどのような保険商品を設計していくらで販売するかは、リスクを分析したうえでリターンを決める分析の作業です。さらに細かく見れば、契約時のカスタマイズや顧客からの保険金請求、さらには不正請求の防止に至るまで、すべてにおいてAIが活用できます。しかもこの動きは、すでに世界中の保険会社で始まっています。

 証券業界など投資の世界も同様です。顧客の注文を取り次ぐだけであればAIはそこまで大きな影響を与えませんが、最近は投資自体をAIに任せる投資信託が大きな好評を得ていると言います。

金融・保険業界の仕事は「AIに代替される」可能性大!AI研究者が警鐘を鳴らす理由とは出典:『10年後のハローワーク』(川村秀憲 著/アスコム)

 いわゆるロボアドバイザーですが、このうち投資判断まで一任するタイプの金融商品の資産残高は、大手5社では、最近5年間で9倍に増えたそうです。成績の出ていない投資商品が人気を集めるわけはありませんので、実績も出ていると考えられます。素人の自分があれこれ考えて失敗するくらいなら、安価であればAIに任せたほうがいいという流れができあがりつつあるわけです。

 私は金融業界のAI化率を90%としました。金融では、究極的にはお金そのものが大切なのであって、人の重要性はあくまで判断をするその瞬間だけです。

 そして、残る10%のなかには、決してAIには担えない判断が含まれるでしょう。

 たとえば、まだ海のものとも山のものともつかない、検証できるデータのない新しいビジネスです。AIが分析すれば高リスク、投資不適格となるかもしれませんが、未来予測ができて意思決定できる人には、そこに大きな投資や融資のチャンスが見いだせるかもしれません。