「すべての科学研究は真実である」と考えるのは、あまりに無邪気だ――。
科学の「再現性の危機」をご存じだろうか。心理学、医学、経済学など幅広いジャンルで、過去の研究の再現に失敗する事例が多数報告されているのだ。
鉄壁の事実を報告したはずの「科学」が、一体なぜミスを犯すのか?
そんな科学の不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみを多数の実例とともに解説しているのが、話題の新刊『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』だ。
単なる科学批判ではなく、「科学の原則に沿って軌道修正する」ことを提唱する本書。
今回は、本書のメインテーマである「再現性の危機」の実態に関する本書の記述の一部を、抜粋・編集して紹介する。

【説明できる?】統計好きでも意外と説明できない「相関関係・因果関係」の違いPhoto: Adobe Stock

「相関」を「因果」と主張する「誇大プレスリリース」の存在

科学分野のプレスリリースは広報担当者だけで作成するわけではなく、科学者が深く関わっていることはあまり知られていない。科学者が自ら全文の草稿を書くこともある。何も知らない研究者が自分の仕事に集中しているときに、メディアが突然、彼らの発見を取り上げて大げさに報道するという筋書きは、決してよくあることではない。

プレスリリースの大きな問題点は、世の中を揺るがすような調査結果が誤っていたという、ありがちな話ではない。むしろ、普通の科学論文の結果を誇張して、実際よりも重要で画期的なもの、あるいは人々の生活を変えるようなものに見せることだ。英カーディフ大学の研究者を中心とした2014年の研究は、健康に関する科学研究のプレスリリース数百件を調べ、そこに説明されている研究と最終的に発表されたニュース記事を照合した。その結果、プレスリリースには3種類の誇大広告があることがわかった。

(中略)カーディフ大学の研究チームが指摘する3つ目の誇大広告は、おそらく最も困惑させられる「相関」と「因果」に関するものだ。

「コーヒーを飲むとIQが高くなる」が「因果関係」と断言できない理由

誰もが、特に科学者は、「相関関係は因果関係ではない」ことを知っている。この基本的な考え方は統計学の入門コースで必ず教えており、科学、教育、経済などに関する公開討論でも昔から取り上げられている。科学者が「観察/観測」データセットを見るときに、ランダム化された実験的介入なしに集められたデータなら、一般には相関関係を示すにすぎない。

たとえば、子どもの成長に伴う語彙の増加を示す研究もそのひとつだ。そのことに物足りなさを感じる必要はない。世の中には物事が互いにどのように関連しているかについて学べることがたくさんあり、相関関係のパターンを正確に把握することは、脳や社会などのシステムを理解する上で不可欠な基礎となる。

ただし、その相関関係をどのように解釈するかについては、かなり注意が必要だ。たとえば、コーヒーをたくさん飲む人はIQが高いという相関関係があったとしても、「コーヒーを飲むとIQが高くなる」と結論づけることはできない。因果関係の矢印は、頭がいいとコーヒーをより多く飲むという反対の方向を示しているかもしれない。あるいは、社会経済的に裕福な層に属することで健康になり、その結果としてIQが高くなる、自分が属する社会で流行しているからコーヒーを多く飲むなど、第3の要因が先の2つの要因の両方を引き起こしているかもしれない。こうした指摘は当たり前すぎて退屈に聞こえるかもしれないが、カーディフ大学の研究では33%のプレスリリースが因果関係を強調していた。自分たちの観察の結果や相関的な結果が、あたかもランダム化された実験から得られたもので、何が原因かを明らかにできるかのように書かれていたのだ。

(本稿は、『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』の一部を抜粋・編集したものです)