Bが新メディアでの展開を過度に優先し、原作の精神や細部を軽視する場合

 例えば、下記のような状況が考えられる。

 Bが市場のトレンドや商業的成功を追求するために、原作のストーリーラインやキャラクターを大幅に変更しようとする。Aには到底受け入れられず、対立が生じる。

 Bが新しいメディアのフォーマットに適応させるために、原作の重要なテーマやメッセージを無視する。これも同様にAには受け入れがたいものとなり深刻な溝が生まれる。

 Bが重要な決定を一方的に行い、Aに相談やフィードバックを求めない。あるいは、Bが自身の専門知識や経験を盾にして、Aの意見を退ける態度を取る。プロジェクトの進行状況や重要な情報をAに共有せず、Aが置き去りにされる状況を作り出すと、Aは孤立し、Bへの不信感が鬱積(うっせき)する。

 Bが商業的なプレッシャーや締め切りや予算の制約を理由に、プロジェクトの進行や内容に対して強引な変更を求める。または、市場調査の結果を過度に重視し、原作の独自性を損なう変更を強要する。これもAの受忍しがたいものとなる。

同床異夢を避ける
「初期設定」が肝心

 見てきたように、AまたはBが何らかのまずいアクションを取り、それが他者によって補整されなければ不満が不信を呼び、2人の関係性は加速度的に悪化する。最悪の場合、今回のケースのように、SNSを使った意思表明のようなことが起こり、本来関係のない他者を巻き込んで、悲しい出来事にまで発展してしまう。

 一般に、このようなケースでは、もしAさんの立場がBさんより強いのであれば、Aさんの言うことを全面的に受け入れるBさんを採用するのが良く、逆であれば、Aさんを事前に説得してメディアに合わせた改変をAさんが容認することを予め条件として契約を結ばなければならない。

 教科書にあるような、あるいは、『セクシー田中さん』の事後報告書にあるような、詳細な契約書の締結、オープンなコミュニケーション、定期的なミーティング、そして互いの意見に耳を傾けるなどはとても有効な手段だが、それでも、紛争は起こってしまうものなのである。

 結局は、初期設定において、同床異夢の状態をなくしてしまうか、強い方に合わせる適切な人選をするかどうかが、致命的な失敗を防ぎ、成功を導く鍵となる。

 そして、この事件と同様の問題は、テレビ局と出版社の間にのみ起こるのではなく、あらゆるプロジェクトで発生しうるのである。似て非なる2者の関係には細心の注意を払わなくてはならない。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)