「いきなり片づける」は自滅のシナリオ

 久しぶりに、70代後半の母親が1人で住む実家に帰省した娘さんの事例です。

 台所の床に賞味期限切れの野菜ジュースやレトルト食品などがたくさんありました。廊下にも積んであったので歩くのに邪魔になると思い、黙って捨てました。すると母親は烈火のごとく怒り、出入り禁止になってしまったそうです。

 なぜ、母親とケンカになってしまったのでしょうか。

 子にしてみれば、「このまま床に置いていたらつまずきそう」「賞味期限切れの物を食べたらお腹を壊すかもしれない」という親切心から、気を回して捨てただけです。

 しかし、実家の物は、基本的に親の物です。自分のお金で買いたい物を買っているのですから、それを勝手に捨てられれば怒って当然です。

 また、親は家庭内の役割意識が強い世代であり、台所は母親の縄張りです。食品を管理できていなかったと指摘されたように感じたり、目が見えづらくなって賞味期限を見ていなかったことが子どもに知られてしまい、プライドが傷ついたりする人もいます。そこで「勝手に捨てられた」という感情がむき出しになり、ケンカになってしまうのです。

「家族なら自分の気落ちをわかってくれて当然」と思っているなれ合いの関係があり、「なぜ捨てたほうがいいのか」をきちんと言語化して説明することを省いてしまったのも敗因でしょう。

 親子は真逆の価値観で生きています。家族だからこそ、丁寧に説明しなければいけなかったのです。

普段は帰省できない人ほど変化に気づきやすい

 実家が遠方で、たまにしか帰省できない人も多いですが、たまにだからこそ、ちょっとした親の変化がわかることがあります。

 ある50代の女性の実家には、70代後半の母親が1人で暮らしています。たまに帰省すると上げ膳据え膳で、いつも食べきれないほど娘の好きなおかずをたくさんつくってくれて、くつろいでいました。