自分と同じ考えの人、気が合うと人とだけ過ごす時間はとても気楽だ。意見がぶつかることもなく、心穏やかに過ごすことができる。「インド独立の父」と呼ばれたマハトマ・ガンジーの孫であるアルン・ガンジーは、現代の学生たちが「思考の安全地帯」にこもってしまっていることに警鐘を鳴らす。本記事では、アルン・ガンジーの著書『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』をもとに、ガンジーの教えを紹介する。 (文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

人として大切なことPhoto: Adobe Stock

思考の安全地帯を好む若者たち

 Z世代と呼ばれる若者は、結末を知った上でその映画を見るかどうか決めたいという人たちも少なくないらしい。

 そんな状態で見る映画が面白いのかどうか、Z世代とは大きく年が離れる筆者にはなかなか理解が難しい。

 いったいどういった考えからそのような行動をとるのか知りたくて検索してみたところ、「2時間かけて見て、つまらなかったら嫌」「失敗したくない」「感情を大きく揺さぶられたくない」などの理由が出てきた。

 映画の面白さは、予測のできない展開や、心揺さぶられるシーンを見ることだと思っていた筆者にとっては、いまいちよくわからない理由ではあったが、そういう人が増えているらしいということは理解した。

 しかし、これは良いことなのだろうか、悪いことなのだろうか。

「孤独」と「他者の意見を受け入れないこと」の違い

 マハトマ・ガンジーの孫であるアルン・ガンジーは、大学で講演する機会が多いそうだ。

 彼は、最近の学生が「思考の安全地帯」を作り、こもってしまっていると警鐘を鳴らす。

 アルンは現代の大学生の様子を次のように語る。

閉鎖的な学生クラブに所属し、自分と似たような人たちとばかり付き合う。または教室の中に安全地帯を作り、新しいものや気に入らないものについて考えることを拒否する。
聞いた話によると、教科書や講義の説明に、不快な表現が含まれるかもしれないという「警告」をつけている学校もあるという。自分と違う考えに触れて、ショックを受ける学生がいるといけないからだ。(P.102)

 さらに、このような状況について「私の祖父がこの状況を見たら、きっと悲しむことだろう」と語る。

 アルンによると、バプジ(マハトマ・ガンジーのこと)の周囲には常に人がいて、一人で過ごす時間はほとんどなかったという。

 その分、バプジは一人きりで思考を巡らせる時間……「孤独」を大切にしていたそうだ。

 しかし、彼の「孤独」は決して新しいアイデアを拒絶することでも、違う考えを持つ人を遠ざけることでもなかった。

バプジはあらゆるアイデアを歓迎した。すべての人の考えに耳を傾けた。そして、一人になってから、それぞれの意見についてじっくり考え、自分の進むべき道を決めていた。
バプジは、自分と違う考えの人たちと、正面から向き合った。最近の大学では、講義の内容が気に入らないと教室から出て行ってしまう学生がいると知ったら、きっとがっかりするだろう。(P.103)

他者を受け入れつつ、自分の意見を持つ

 アルンは、「思考や意見の『安全地帯』は、おそらくもっとも危険な場所と言えるだろう」と指摘する。

 なぜなら「そこにいると、自分と違う考え方がまったく見えなくなってしまうからだ」と言う。

 たしかに、意見が違う人と過ごす時間は、刺激的である一方で、面倒な点も多いだろう。

 言い合いになる可能性もあるし、相入れないことで相手に勝手にがっかりして、距離ができる可能性もある。

 ただ、それは相手の意見を自分なりに咀嚼せずにブロックしてしまった場合に起こることだ。

 アルンが覚えている、バプジの言葉がある。

「人間の精神は、たくさんの開かれた窓がある部屋のようであるべきだ。すべての窓から風を入れなさい。しかし、どの風にも吹き飛ばされてはならない」(P.104)

 アルンは、これを「絶対に忘れてはいけない教え」と語る。

 なぜなら、「柔軟な精神を持つこと」と「すべての考えを受け入れること」は違うからだ。

いつの時代でも大切にしたい、ガンジーの教え

 私たちは、自分にとって都合のいい意見を聞き、心地よい言葉に耳を傾けてしまう。

 そして、一度「この人の言うことなら間違いない!」と思うと、その人の発する情報を鵜呑みにしてしまうこともある。

 これは世代に関わらず、誰にでも起きることだ。

 誰だって、自分の意見は肯定的に受け止められたいものだ。しかし、これは実はかなり怖い状況であることを、私たちは自覚しなければならない。

「世界に窓を開きながら、さまざまな意見や情報を得て、それをもとに自分で考える」

 ガンジーが大切にしてきたこの工程を、人は生きていく上で決して無くしてはならないのだ。

 実に多くの反対意見に立ち向かい、時には暴力を受けながらも世界が正しい方向に進めるように非暴力・不服従の運動を続けたマハトマ・ガンジー。

 彼の不屈の精神は、こうした柔軟な姿勢から生まれていたのだろう。

 現代においても彼の教えが生きてくるシーンは、まだまだたくさんあるはずだ。