「事業を始めたいがお金がなくて困っている人」がいる一方で、「お金のことにはあまり執着せずスイスイ成功している人」もいる。この違いは何だろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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 私は、起業を考えている人からよく相談をされる。
 よくあるパターンの1つが「資金がなくて困っている」という悩みだ。

 たとえば、「これから有機野菜を売る店を開きたい」というDくんがやってきたとしよう。

 彼の悩みは大きく2つ。
 1つは「お店をつくるには資金が必要だが、そのアテがない」こと。
 もう1つが「野菜を仕入れる提携先農家が見つからない」こと。

 さて、あなたなら、Dくんの悩みにどう答えるか?

もし手元に10億円あったら……投資? 起業? 政治家?

 まず、どんな相談事についてもいえるが、本人が「◯◯さえあれば……」と思っていることは、たいてい思い違いである。

「◯◯」が手に入ったところで、問題の解決・解消にはつながらないことが多い。

 相談者も心のどこかでそれをわかっているのかもしれない。
 なのに、なぜそんなことを言っているかといえば、考えたり行動を起こしたりすることを先延ばしにしたいからである。

 そのための「言い訳」として「◯◯がないからできない」と言っているだけなのだ。

 なかでも最も“便利な”言い訳が「お金」である。
「お金がないからできない」と言っておけば、行動を起こさなくてすむ。

「もし突然、10億円をもらえることになったら、みなさんどうしますか?」

 以前、レオス・キャピタルワークス創業者の藤野英人さん(1966年生)が、SNSでこんな質問を投げかけていた。

 コメント欄を見ると、たくさんの人が答えていたが、それに目を通した私はちょっとびっくりした。

 集まった答えのほぼすべてが「10億円なくてもできること」か「10億円あってもできないこと」のどちらかだったからである。

 たとえば、「将来性のある企業に投資します」という答え。

 これは別に10億円なくても、いますぐできる。
 手元資金を投資し、お金が貯まってきたら投資額をもっと増やせばいい。

 また、「起業します」と言う人もたくさんいた。
 しかし、会社をつくるのにも10億円など必要ない。
 資金ゼロでもできるし、「北の達人」も資本金1万円でスタートした。

 一方、「本当に日本のために働く政治家になります」という答えもあった。

 だが、10億円あるからといって、素人がいい政治家になれるのか。
 それに、たとえ政治家になれたとしても、10億円程度では国の役に立つようなことはできないだろう。

 本当に日本のために何かしたいなら、いますぐ立候補して政治活動を始めればいいだけの話だ。
 みんな、それぞれに夢を抱いている。
 けれども、それに向かって行動を起こせない。

 このとき、「行動を起こさない言い訳」として「お金」が機能している。

 しかし、それらはすべて「お金がなくても、いますぐできること」だ。

「お金があれば……」と嘆く人が
「お金があっても」変わらない理由

 私は起業して以来現在まで、一度として「お金さえあれば◯◯できるのに……」と感じたことがない。

「いつも儲かっていて、手元にお金があったから」ではない。

 お金に苦労したことは何度もあるし、創業から2年間は役員報酬がゼロだったので、食べていくには昼間に別のアルバイトをしなければならなかった。

 しかし、そのことで悩んだことはない。
 どんな問題があっても、そのほとんどはお金では解決できないとわかっていたからである。

 私はこれまで多くの問題に向き合ってきたが、「お金があったおかげでなんとかなった」経験は一度もない

 だから、お金がないことで悩んでいる人、特に資金集めに奔走している起業家などを見ると、正直なところ「無駄な時間の使い方をしているな……」と感じる。

 たいていの問題は、お金がなくても対処できる。

 問題に立ち向かうときにいちばん大事なのは「思考」と「行動」だ。

 考えることをあきらめず、しかるべき行動を取れれば、お金なんて必要ない。

 こう考えれば、「お金がない」せいで悩むことはなくなる。

 考えてみてほしい。
「お金でなんとかする」というのは、いわば「お金を払って他人に問題を解決してもらうこと」にほかならない。

「自分以外にその問題を確実に解決できる人がいる」ときに初めて、このやり方はうまくいく。

 逆に、自分以外でその問題に対処できない場合は、いくらお金があってもどうにもならない。

 東日本大震災が起きたとき、あまりの被害に心を痛めた世界中・日本中の人たちから、多額の義援金やたくさんの物資が集まった。
 そして現地に駆けつけたボランティアの人たちも大勢いた。

 被災地には「ヒト、モノ、カネ」がすべて集まった。
 しかし、実際にはそれだけではうまく機能しなかった。
 それぞれをうまくオペレーションできなかったからである。

 人はたくさんいるが、誰が、どう、何をすれば、がれきを撤去できるかわからない。
 物資はたくさんあるが、どこの誰が何を何個必要としていて、それをどう届けたらいいかわからない。
 お金はあるが、それをどう使って目の前の問題を解決すべきかわからない。

 その結果、被災現場にはどうしていいかわからない手持ち無沙汰のボランティア、行き場のない支援物資があふれかえっていた。

 そして、あるベンチャー起業家が現地を訪れた際、被災地支援の最大の問題が「マネジメントスキルを持った人がいないこと」だと気づいた。

 現場には混乱の中で道筋をつくるベンチャー起業家のような人材が必要だった。

 そこで彼は仲間の起業家たちに声をかけて現地に集合させ、お金やモノをうまく分配したり、ボランティアの人たちを指揮する仕組みをつくっていったのである。

 これにより、ようやくさまざまな問題が解決されていった。
 お金やモノだけがあっても問題は解決しない。

 思考できる「人」・行動できる「人」がいない限り、事態は動いていかないのだ。

 逆にいえば、そういう「人」さえいれば、お金は大して必要ないのだ。

「1億円を集められる人」の2つの条件

「北の達人」では、商品販売のために数億円単位の資金をネット広告に投じている。

 月々の具体的な金額を明かすと、「え、そんなに!?」と驚かれる額だ。

 なかには、「さすがにそれだけお金をかければ、だれだって成果が出せるでしょうね」と言い出す人がいる。しかし、これは単なる思慮不足と言うほかない。

 そもそも、私たちは1万円分の広告投資をして1万2000円の売上総利益(売上-原価)をつくるところからスタートしている。

 それを1万回積み重ねることで、1億円分の広告で、1億2000万円分の売上総利益を上げている。

「大金があるから成果が出せる」のではなく、「小さなお金で成果を出し、それを繰り返すことで大金で成果を出している」ので、小さなお金で成果を出せない人は大金があっても成果は出せない。

 もし確実に1万円で1万2000円の売上総利益を出せるなら、それを1万回繰り返せば1億円を1億2000万円にできる。

 だから、「この人は確実に1万円で1万2000円の売上総利益を出せる」と判断されたら、銀行も投資家も喜んで1億円を貸してくれるので、資金に困ることはない。

 1億円を貸してもらえないのは、1万円を1万2000円にすることすらできないからである。

 本当に必要なのは、「1億円」ではなく、「1万円を1万2000円にできる頭脳と行動力」である。

「資金がないからできない」と悩んでいる人は、この点においてまったくの問題外だと言っていい。

自分でつくった前提条件に縛られていないか?

 ここまでの話を踏まえながら、先に触れた「有機野菜の店を開きたいDくん」の相談について考えてみよう。

 本書で紹介したように、たいていの人は「目的Pのためには手段aが必要」と考えているが、このaそのものが単なる思い込みであるケースが多い。

 こういう先入観に惑わされないためには、最終目的を見直し、そこから逆算していく必要がある。

 Dくんの最終目的は「有機野菜を売ること」──。
 ここから逆算したとき、彼の悩みはすぐに解消してしまう。

 たとえば、Dくんは「店の開業資金がないこと」について悩んでいるが、そもそもこの目的を果たすために、本当に店舗をつくらないといけないのだろうか?

 とにかく有機野菜を売りたいなら、わざわざ店を持たなくても、トラックを使った移動販売で十分だ。

 トラックと駐車場も自分で所有する必要はない。
 だれかにクルマと場所を借りて即売会を開けば、「有機野菜を売る」目的は達成される。

 また、「提携先農家が見つからない」という悩みも、彼の思い込みから生まれている。
 そんなことをしなくても、有機野菜は仕入れられるからだ。

 たとえば、少し遠い町に行って農協や道の駅などに売っている有機野菜を買ってきて、それを地元で売ってみればいい。

 最初のうちは、仕入値と同じ売価でもかまわない。
 もちろん、それだと利益は出ないが、確実に売れることがわかってから本格的に事業化しても遅くないはずだ。

 そうやって顧客リストや販売実績をつくったうえで交渉したら、提携先農家や銀行も喜んで取引してくれるだろう。

「お金がないから」と言う人が見過ごしていること

「事業を始めるには資金がいる」という理屈は、現代ではまったく通用しない。

 特にネットビジネスの世界では、資金ゼロでスタートした企業は珍しくない。それこそ有機野菜だって、道の駅などで買ってきたものをフリマアプリで売ってもいいはずだ。

 そうやって固定客をつくってから、自社サイトで販売するのもいい。
 そしてさらに儲かればお店を開けばいい。
 ヤフー、グーグル、メタ、マイクロソフトなどは、そもそも学生がほぼ資金ゼロで始めたビジネスだ。資金ゼロでも世界企業すらつくれるのが現代だ。

 こう考えていくと、「開業資金がないから」「提携先農家がないから」というのは、Dくんにとって悩みの原因にはなりえない。

「お金がないから」「実績がないから」と言っている人は、だいたい前提条件を見誤っている。
 最終目的から逆算すれば、たいていのことにはお金はいらないのだ。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)