「数学は単なる計算技術」という
日本にはびこる由々しき誤解

 私は中学生の頃、親戚の人達と一緒にお蕎麦屋さんに行くと、最後に「みっちゃん、数学が得意だから、お勘定いくらになるか計算して」と言われるのが嫌で、辛い思い出として残っています。

 今ほど電卓も普及していなかったこともありますが、「数学は単なる計算技術」という迷信を信じている大人には残念な気持ちがありました。もちろん、「数学は単なる計算技術ではありません」などと反論することもなく、静かに計算した中学生でした。

 日本には、それ以外にも数学に関する誤解が数多くあり、それが数学嫌いを助長させる面もあるようです。数学関係者が、数学に関する誤解を解く努力をあまりしていなかったこともあると、反省しています。

 上記以外の例をいくつか挙げましょう。

 今でもネットでは多数見られますが、「数学なんかできたって、将来は学者か学校の先生しか仕事はない」という日本固有の困った見方です。実際は真逆です(2019年に経済産業省が発表したレポート「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」を参照)。

 たまに年配の方が小学生か中学生に対して、「○○ちゃんのお父さんもお母さんも数学が苦手だから、血筋からいって○○ちゃんが苦手なのは仕方ないよ」という光景を目にします。その方は、数学が苦手なことを慰めているつもりでしょうが、「数学が苦手」という意識を強めているだけで、迷惑千万なことです。

 もちろん、反例はいくらでもあります。私は学生・大学院生時代に家庭教師で多くの生徒の点数UPに成功しましたが、生徒のできる面を評価して、「キミは苦手どころか意外とできるじゃないか」などと言って、自信をもたせることを大切にしました。自信をもつと、問題を落ち着いて考えることができるようになるので、それだけで試験の点数は20点ぐらい上がったことを思い出します。