数式写真はイメージです Photo:PIXTA

「公式は覚えるだけでいい」「数学が苦手な血筋だから解けない」など、数学を嫌いにさせるような言葉は少なくない。しかし、数学は本来、それぞれのペースで楽しめる有意義な学問なのだ。70歳を超えた数学者が語る、数学の本当の面白さとは。本稿は、芳沢光雄『数学の苦手が好きに変わるとき』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

数学の理解は急がなくていい
日暮れまで没頭する熱を大切に

 数々の偉大な業績を残したドイツの数学者ガウス(1777-1855)は、すでに3歳のときに石屋を経営していた父親の帳簿を横からチェックしてあげていたそうですが、反対に、ゆっくり数学を理解していき、上手に数学を活かして立派に生きている人もたくさんいます。桜美林大学リベラルアーツ学群では、文系として入学したものの、最終的には数学専攻を優秀な成績で卒業して、教員として大活躍している人が何人もいます。

 数学に限らず日本には、年齢相応という考え方が広くはびこっていますが、アメリカなどでは高齢の老人が大学で無邪気に学んでいる姿をよく見掛けます。

 それだけに、理解の遅い生徒に暴言を吐く指導には閉口させられます。

 ネットでは「制限時間~秒」という単純な計算問題をよく見掛けますが、「早く早く」とせかす教えはあちこちで目立ちます。ゆっくり着実に学んでいく姿勢こそ、もっと評価すべきでしょう。

 たとえば、中学校で習う図形の証明問題を粘り強くずっと考えている生徒に対して、「そろそろ日が暮れる時間だから帰宅しなさい」とだけ声を掛けるならば、「よく張って考えているね。その姿勢はとっても大切だけど、そろそろ日が暮れる時間だから帰宅しないとね」と声を掛ける方が、ずっとプラスと考えます。大学数学科教員として22年間勤めましたが、遅咲きの学生は皆、このようなタイプの者であったと振り返ります。

 中学校時代の親友で、計算問題は遅いものの証明問題が好きだった人がいましたが、彼もそのような学生さんと同じようなタイプでした。このような中学生に対して、「早く早く」ではなく、温かく見守ってあげる気持ちをもつか否かが、その人の人生を大きく左右するでしょう。