スピードの個人差が激しく
「誤解」を持たれがちな学問

 高校生が数学を苦手とする内容にはいろいろありますが、sinやcosなどの三角関数、logの対数関数については、「苦手で嫌いな内容です」とよく言われます。

 それだけでなく、「そもそもlogなんか何の役にも立たないじゃないか」、「1周の360°を超えた角度のsinやcosなんか、意地悪のため以外には意味ないよ」とまで言われます。

 そのような生徒に会うたびに私は、「対数というのは10000000000のような非常に大きい数や、0.00000001のような(0に近い正の)小さい数を扱うときに便利なもので、logが発見されたことから天文学や細菌学が飛躍的に発展したんだよ。そもそも人間の五感は、logを用いた式によって表されるのだよ」、「音などの周期的に繰り返す波の研究には、360°を超えた角度のsinやcosを用いるフーリエ級数というものが必須なんだよ」と説明しています。

書影『数学の苦手が好きに変わるとき』(筑摩書房)『数学の苦手が好きに変わるとき』(筑摩書房)
芳沢光雄 著

 その他として、一見同情しているように聞こえるものの、生徒の心を傷つけている発言も指摘せざるを得ません。数学が苦手な生徒に対して、「やり方だけ暗記して、マークシート問題だけ解ければいいじゃないか」というものです。

 この発言を「その通りかもね」と思う生徒も多くいるかも知れませんが、「自分も難しい概念を自分なりに理解して、数学の面白さをもっと知りたい」と考える立派な生徒にとっては、ひどく傷つけられる発言なのです。

 ここまで述べてきたように、数学というのは学ぶスピードの個人差が激しく、また、さまざまな「誤解」を持たれがちな分野なのです。そういった誤解を信じてしまい、「自分は数学ができないんだ」と思ってしまうのは大変もったいないことです。