放送業界とは無縁の企業経営者が
NHKのコンテンツの最終責任者になる

 業務運営の独立性については、NHKでは外部の専門家・有識者で構成される最高意思決定機関が置かれている。

 編集上の独立性については、「BBCもNHKも『表現の自由』『編集権の独立』などの重要な原則が法律で保障されている」「政府の直接的管理を避ける目的で設置された最高意思決定機関でさえ、個別の番組内容について干渉することを法律で禁止されている」という。

 これがBBCは理事会、NHKは経営委員会に相当する。「この点ではBBCとNHKに大きな相違はない」。

 しかし、委員の選出方法には違いが見られると中村氏はいう。「1990年代末以降、英国では独立した公職任命制が導入され、選出過程の透明性が確保された。理事長の任命も公募から始まる。日本の場合は人選にかかわる情報は公開されず、任命に至った経緯は全く分からない」。

 BBCのディレクター・ジェネラルは報道畑にいた人が就任する伝統があり、現在この職に就くティム・デイビーも、自分自身はジャーナリストではなかったが、2005年からBBCに勤務しており放送業界での経験が長い。一方、NHKで同等の職となる会長職は、2008年以降、「放送業界とは無縁の民間企業の経営者から選ばれ、3年の任期が終わると交代している」「会長が報道の最高責任者であることを考えると、異常な事態が続いている」(中村氏)。

 BBCもNHKも現在では、放送を維持しつつネットにも注力する方向に進んでいる。しかし、実際にはBBCのほうがネットへの展開に迅速だった。この背景として、中村氏はBBCと民放との関係をあげる。

 1998年の地上デジタル放送開始以降、英国では「BBCと地上波民放テレビ局の関係が競争から協働へと変化した」「景気に左右されない受信料収入を使って、BBCが新サービスへの道を開き、それに民放も続いていくという関係である」「BBCが民放だけでなく様々な団体と協働することが受信料の価値を最大化するという考えを自ら採った」「公共サービス放送として長い歴史をともに刻んできたテレビ業界のエコロジーが出来上がったのではないかと思う」。一方、日本の場合は、NHKと地上波民放局の対立の構図が続いているという。