「英国のBBCは日本のNHKに相当する」。英国の公共放送・BBCが日本で紹介される際によく使われる言葉だ。両者とも視聴世帯から徴収する受信料で活動費用を賄う公共放送であるが、実際には何が違うのだろうか?在英ジャーナリストとして長年英国メディアの動きを取材し続けてきた小林恭子氏が両者の共通点と決定的な違いを解説する。※本稿は、小林恭子『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。
「国営放送」ではないけれど
公共の利益のために活動する組織
「英国のBBCは日本の公共放送NHKに相当する」
BBCを紹介する時、よくこのような表現が用いられる。どちらも公共放送(BBCは「公共サービス放送」)で、視聴世帯から徴収する放送受信料で活動費用をほぼ賄っている。では、どこが違うのだろう?
基本的な共通点を見ていくと、その誕生はいずれも1920年代である。BBCは1922年に民間企業「英国放送会社」として発足後、1927年に公共組織化され、「英国放送協会」となった。一方のNHKは1926年に社団法人として成立し、1950年に特殊法人化された。いずれの場合も公共組織体として運営され、公共の利益のために活動する。国が国家予算などを主財源として直接運営し、編集方針も決める「国営放送」ではない。
その存立基盤は、BBCの場合は君主の名のもとに約10年ごとに発効される「王立憲章」、NHKは1950年施行の放送法による。BBCの設立目的は「BBCのミッションを実現し、公的目的を振興する」ことで、そのミッションとは「公益のために活動し、不偏不党、独自のアウトプットやサービスを通じてすべての視聴者に仕える」ことである。一方のNHKは「公共の福祉のために、あまねく日本全国で受信できるように豊かで、かつ良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び国際衛星放送を行うこと」とされる。
NHKの最高意思決定機関は有識者12人から構成される経営委員会だが、委員の任命は衆参両院の同意を得て首相が行う(委員長は委員の互選によって選ばれる)。重要事項の議決や職務執行の監督、業務執行の責任者となる会長の任免権を持つ。さらに経営委員の一部で構成する監査委員会がNHK役員の職務を監査する。大きな権限を持つ存在と言えよう。
BBCの場合、経営委員会に相当するのがBBC理事会(14人構成)だ。BBCの戦略的方向性を決定する。理事長は公募を経て、政府の助言を得た後に国王の諮問機関である枢密院が指名する。事実上、政府の推薦人物がほぼ就任すると言ってよい。NHKの会長職に相当するのがディレクター・ジェネラルで、BBCが生み出すコンテンツの最終責任者だ。理事会の中の任命委員会が候補者を精査し、決定する。理事会にはディレクター・ジェネラルを含む執行理事が4人含まれ、理事会と執行部との協力体制が強い構成となっている。