ほかにも2014年にはベネッセコーポレーションの顧客情報を委託先企業の派遣社員が持ち出し、名簿業者に売却した事件。2021年には、ソフトバンクの元社員が転職先の楽天モバイルに機密情報を持ち出し、逮捕された事件などもあります。

 このため各企業では、機密情報漏洩防止に取り組み、リスク管理などを進めています。会社などに入社する際、契約書の中に「退社するときには一定期間、同業他社には就職しない」という条項を入れたり、退職の際には「業務上知り得た機密情報を外に出さない」という機密保持の契約を交わすのが一般的になっています。

法律適用外の外国人を雇うリスク
中国による狡猾なリクルートの現状

 しかし、社員が外国人の場合は、その条項が通用しなくなります。例えば中国人が日本の企業で働いたあと、退職して中国に帰ってしまった場合です。

 帰国後、同じ業界のライバル企業や研究機関などに就職したら、データは持ち出さなくても、自身が知り得た情報を流し放題になる可能性があります。すでに日本国内にいないので、日本の法律は及びません。これが正直、中国の手口なのです。

 機密情報を国外に持ち出された場合、損害賠償の裁判を起こすことはできますが(日本の裁判所に)、本人(被告)の身柄が国外にあるので、国際指名手配はできるものの、持っていかれた情報やデータは取り戻せないケースがほとんどです。

 このように社員などが情報をもって転職するほか、企業の機密情報を盗むのがスパイです。やはり中国はスパイ活動が活発なので、最先端の研究をしている日本人の社員や研究者に対して、スパイがコンタクトしてくることがあります。

 その手口はまず、狙いをつけた企業の日本人社員や研究員の背景を徹底的に調べます。

 そして、今もらっている給料よりもっと多くの給料や好待遇の条件を提示したり、転職先のいいポジションを用意します。その社員が、社内で評価されていないことや、自分の研究成果が認められていないという不満を見抜いて、声をかけていきます。

 もちろん、正式なリクルートではないので、正面からは当たってきません。それは、ターゲットがプライベートな場やSNSなどで会社の不満を口にしていることまで、過去にさかのぼって調べ上げていくのです。

「あなたに今以上の高額な報酬と、自分がやりたい研究をさせてあげよう」

「あなたの研究論文が世に出るように、全面的にバックアップしたい」

「あなたのような優秀な研究者は、中国へ行けば国中で認められる」

 などと甘い誘いをかけ続けることで、中国に行って成果を上げたいという研究者の希望を叶えるような状況を作り上げるのです(もちろん、最初は友人になりたいなど、ソフトなアプローチで親しくなっていきます)。