インフレで痛手を受けるのは弱者だ

 今後、インフレに転じれば、みなさんが比較的多額の資産を持っている資産家でない限り、今の生活が改善する保証はない。むしろ悪化する可能性のほうが高い。それにも関わらず、日本では強者である企業や資産家が「デフレは悪だ」と言い続けるので、弱者である個人や平均的な労働者まで同じことを言い始めている。もし本当にインフレが起きたら、弱者には非常な痛手となることに気づいているだろうか。

 安倍晋三首相からの要請もあって、複数の大手企業が2013年春の労使交渉でボーナス(一時金)の引き上げを決めた。これにより、今年の賃金上昇率が、目標インフレ率の2%と同程度になる企業も出てきたようである。そうした企業に勤務する人は、仮に今年のインフレ率が2%上昇しても当面は今と同じ暮らしができそうだ(よくなるわけではない)。

 しかし実際は、ボーナスすら引き上げられない企業のほうが多いだろう。そうした企業に勤務する人は、もしインフレ率が2%上昇すれば、実質的な購買力は2%低下する。むろん、今年のボーナスが引き上げられて、年収が2%以上増えた人も安泰ではない。基本給部分が上昇したわけではないため、来年は年収が下がるリスクもある。こうして、インフレになると経済的な格差が拡大していくのである。

次回は4月24日更新予定です。


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インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?
デフレ脱却をめぐる6つの疑問

日本では「デフレは悪で、インフレが望ましい」という考え方が広がり、定着しつつあります。特に安倍晋三首相が選挙前から「量的緩和の拡大」「デフレからインフレへ」などと盛んに発言し、実際にマーケットが円安・株高に動いたため、この風潮はますます強まっています。経済が停滞しているのも、若者の就職難もデフレのせいで、インフレになれば経済が活性化し、苦しい生活が楽になるがごとく喧伝されますが、本当にそうでしょうか?インフレが起こった場合、物価の上昇に追いつくほど給料が上がらない場合、銀行預金程度の資産しか持たない一般の人たちの購買力は低下して、今より貧しくなるのです。それでも皆さんはインフレを是とするのでしょうか。本書は、インフレの基本的構造や金融政策の仕組み、それらの個人や企業への影響、為替との関係などを分かりやすく解説した入門書です。

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