流川からのラストパスに込められた意味
自分のためではなく、チームのために行動

 四つ目の成長ステップは、ステップの仕組み化です。一般的に仕組み化とは、属人性を排除し、誰がやっても同じ成果を出すことを指します。しかし、他より抜きんでて大きな成長や成果を出すためには、実はその属人性こそが重要なケースもあります。安西先生も、桜木を加えた5人をチームの固定メンバーに考えるようになります。

 わずか4カ月という短い期間で全国制覇という高い目標を達成するため、安西先生は桜木の成長に賭け、他のメンバーとは別の、シュート練習2万本という一大課題を出しました。一見すると無謀な数字ですが、安西先生は、「『桜木は素人だ』と相手が油断している隙に、シュートを決めるんだ」という最終的に“なるべき姿”を具体的に指示することで、桜木のモチベーションを上げました。

 こうして桜木は、周囲の期待に応え、ジャンプシュートの基本をマスター。チームに欠かせないピースとなったのです。

 そうして迎えた山王戦。20点差をつけられた終盤、安西先生は選手たちをこう鼓舞します。

「桜木君がこのチームにリバウンドとガッツを加えてくれた
宮城君がスピードと感性を
三井君は(中略)知性ととっておきの飛び道具を
流川君は爆発力と勝利への意志を」

 赤木が支えてきた土台の上にこれだけの要素が加わったことが、湘北バスケ部の強みだと語ります。

 この安西先生の言葉により、一人ひとりが自分の役割を再認識し、チームに一体感が生まれます。桜木と流川はライバル関係にあるため、これまで試合中にお互いがパスを出すことはありませんでした。ところが試合終了間際――。

 ドリブルで速攻を目指す流川は、相手選手2人に止められ、シュートコースをふさがれます。万事休すと思われましたが、流川は視界にとらえた桜木にパスを出します。フリーだった桜木は、2万本練習の成果を生かし、落ち着いてゴールを決める。湘北がついに逆転したのです。

 流川のパスには、「自分のためではなく、チームのために行動する」というメッセージが込められているでしょう。桜木もそれに応え、パフォーマンスに走らず、基本に忠実にシュートを打ってゴールを決めた。勝利という目標のためにチームプレイが機能する仕組みができあがった名シーンです。

『SLAM DUNK』は1990年代に連載された漫画ですが、各々の能力を発揮しながら生産性を高めることが求められている今のビジネスシーンにおいて、非常に参考になる点がたくさん詰まっている作品といえます。こうした観点で改めて読み返してみては、いかがでしょうか。