職場には「悩みやすい人」と「悩まない人」がいる。この違いは何だろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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「『できないこと』に悩むのは『あきらめない』からだ。
 いますぐあきらめてしまえば、悩みは消える」

 しばしばこんなことがいわれる。
 特に僧侶が書いた「悩み」に関する書籍に出てくる記述かもしれない。

 人生全般に関していえば、参考にすべき教えなのかもしれない。
 だが「仕事」の場面では、このアドバイスは大いなる誤解を招く。

「そうか、あきらめればいいんだ」と、仕事で困難にぶつかるたびにあきらめることを繰り返していくと、最後には何もできない人になっていく。

 仕事での「あきらめの早さ」は、必ずしも「悩まないこと」にはつながらないのである。

 こんなとき、どのような思考アルゴリズムが有効なのだろうか?

「効率化」と言いながら、ただ「あきらめている」だけの人

 とても賢く、基本的な能力が高いのに、なんでもすぐにあきらめてしまうHくんがいる。

 彼に「どうしてすぐあきらめるの?」と聞いてみると、
「このまま続けていても効率が悪いからです。非効率なことはやめたほうがいいですよね?」
 と答えた。

 つまりHくん本人は、あくまでも「無駄を省いて効率化しているつもり」なのだ。

 だが、傍から見ていると、彼は思いどおりにいかなかったこと・苦手なことから逃げているようにしか見えない。

 そもそも、効率化とは、うまくいったやり方によって省力化することである。

 まだうまくいくやり方が見つかっていない段階で手を引いたところで、効率化とは呼べない。

 Hくんの言う「効率化」は、「あきらめている自分」から目を逸らすための自己欺瞞だ。
 こういう人は「自分があきらめている」という自覚すらないことがほとんどである。

「悩まない人ほど、あきらめが早い」と思っている人は多いだろう。

 しかし、Hくんのような「効率化」をしても、悩みのタネは消えない。
 彼は起きている問題をそのままにして、無視しているだけだからだ。
 放置された問題は、いずれなんらかの形で彼の足を引っ張ることになる。

 ではどうすればいいのか──?

 本当の意味で「悩まない人」は「あきらめが早い」のではなく、「切り替えが早い」のである。

 この違いがわかるだろうか?

「切り替えが早い人」は“何”を切り替えているのか?

 目標Pのために手段aでアプローチし、それが思いどおりにいかなかったとき、「あきらめが早い人」は目標Pの達成そのものを断念してしまう。

 一方、「切り替えが早い人」は、手段aによる実現はすぐにあきらめ、別の手段bを試そうとする。

 目標はPのまま変わらない。bが思いどおりにいかない場合は、c、d、e……と手段を切り替えていく。

 あきらめが早い人は、目標の達成自体をあきらめているので、その都度、「うまくいかなかった……」と挫折感を味わう。

 それを覆い隠すために、「自分は効率化しているのだ」ともっともらしい理屈をでっち上げねばならなくなる。

 他方で、切り替えが早い人は、思いどおりにいかなかった方法を捨てているだけで、目標そのものをあきらめているわけではない。

 また、すでに本書で見たとおり、失敗は勝率を高めるための糧になるので、着実に前進している手応えが得られる。

「あきらめが早い」と「切り替えが早い」とのあいだには、圧倒的な差がある。

 本当に「悩まない人」の思考アルゴリズムは、実現困難な仕事にぶつかったとき、目標達成を断念しない。

 すぐにいまのやり方を捨て、次の方法を模索することが当たり前になっているのである。

 自分のことを「方向オンチ」「ITオンチ」と言っている人がいるが、それは能力や素質の問題ではない。

 単純に、困難に出合ったときに、別の方法を探す習慣がなく、すぐあきらめる思考グセが染みついているだけである。

 道に迷わない人は方向感覚がすぐれているわけではなく、ただ地図を見ているだけだったりする。

 逆に、道に迷う人は方向オンチだから迷うのではない。
 知らない道なのに地図を見ないから迷う。
 迷っているのに、地図を確認しないからたどり着けない。

 そんなあきらめグセに「方向オンチ」というラベルを貼ってごまかしているだけである。

この紙一重の差が100倍の成果の差を生む

 このような話をすると、
「そうそう! あきらめないことは大事ですよね。『あきらめの悪さ』だけが私の取り柄です」
 という声が聞こえてくる。

 どれだけ思いどおりにいかなくても、全然あきらめずにがんばり続けられる人がいる。

 しかし、私が言いたいのは、このような我慢強さのことではない。

 うまくいく目算や具体的方策がないまま、これまでどおりのやり方を貫き通すことを称賛する風潮があるが、成果を出すうえではこうした根性論もまったく不要である。

 燃え尽き症候群やメンタルダウンにつながる可能性を考えると、こちらのほうが悪質かもしれない。

 成果が出ないのに同じやり方を続ける人は「あきらめが悪い」だけである。

 道に迷っているのに、地図を確認せず、「たぶんこっち」と勘に頼って歩き続ける。
 気づいたときには、どうにもならないくらい目的地から遠ざかり、絶望する。

 こういう人は、最初に決めた手段を遂行することしか頭になく、じつは本来の目的を見失っている。

 一方、本当に「悩まない人」は、どんなときも当初の目標や最終目的から目を逸らさない。

 すべてはそこにたどり着くための手段にすぎないので、目標・目的を達成するためなら、ダメな方法は平気でどんどん切り捨てていく。

 迷えばすぐに地図を見るし、地図が間違っていれば人に道を聞く。

「あきらめが悪い」というより、「執念深い」のである。
「悩まない人」は、あきらめが早いのではなく、切り替えが早い。
「悩まない人」は、あきらめが悪いのではなく、執念深い

「悩みやすい人」と「悩まない人」で成果が100倍の差に! その「紙一重の差」とは?

 この紙一重の差が、100倍の成果の差を生むのである。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)