「オーバーツーリズム」深刻化で岐路に立つ日本、デジタル時代の持続可能な観光戦略とはオーバーツーリズム問題が深刻化。観光業の継続的な発展のために必要な方策とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

観光需要の回復に伴い、各地でオーバーツーリズム問題が深刻化している。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、観光客の行動変容や分散化にはITを活用した手法が効果的ではないかと指摘。観光業の持続的発展に必要な方策について、及川氏が解説する。

観光需要の回復が起こした
「オーバーツーリズム」問題

 最近、ビジネスホテルの価格高騰が深刻な問題となっています。地方からの出張者は、規定の出張費では都心のホテルに泊まれず、郊外のホテルから1時間以上かけて“出勤”する事態だといいます。

 客室価格高騰の背景には、ホテル業界の人手不足、光熱費や物価の上昇なども挙げられます。しかし大きな要因として、コロナ禍で実施されていた水際対策の緩和や円安によるインバウンド需要の増加、全国旅行支援の開始による観光需要の回復があります。

 確かに私も都内のさまざまな場所で、以前よりも多くの訪日観光客を目にするようになりました。特に「こんな場所で!」と驚くような場所で、服装や集団の雰囲気から、商用ではなく観光で来たと思われる人たちを見かけます。宿泊施設の不足により、観光地ではない地域にも海外からの観光客が宿泊するようになっているのです。

 こうした観光客の増加は、各地で「オーバーツーリズム(観光公害)」問題を引き起こしています。京都市内のバスでは観光客の大きなスーツケースが通路をふさぎ、地元住民がバスに乗れないなど生活に支障をきたす事態になっています。北海道のニセコ町でも、スキーリゾートとしての人気上昇に伴い観光客が急増し、特に冬季には交通渋滞や駐車場不足が問題となっています。

 富士山麓では「コンビニの上に富士山が乗ったように見える」とSNSで話題のスポットに観光客が殺到し、交通渋滞や環境への負荷が問題となりました。富士山については登山者の増加も課題となっていて、対策として登山者数の制限や通行料の徴収、「富士山レンジャー」の導入による安全管理やマナー啓発などが行われています。しかし弾丸登山や軽装での登山、悪天候でも登頂を試みる登山者が後を絶たず、遭難者は相変わらず多いようです。