アマゾンが証明する「実験の力」

アマゾン・ドットコムは、間違いなく世界で最もイノベーティブな企業であり、実験の力に心底納得している稀有な存在である。

その画期的なイノベーションには、サードパーティ販売者向けのプラットフォームの「アマゾンマーケットプレイス」、世界で最も人気のある電子書籍リーダーの「キンドル」、クラウドコンピューティングで圧倒的なリードをつけている「アマゾンウェブサービス」、音声アシスタントの「アレクサ」、レジをなくした実験店舗の「アマゾンゴー」などがある。

こうしたアマゾンを代表するイノベーションの背後には、余分な梱包を減らす「フラストレーションフリーパッケージング」など、あまり光が当たらないイノベーションが何百とある。

アマゾンの絶え間ない成長は、トップダウンの素晴らしい構想の産物ではなく、ボトムアップの間断ない実験を奨励する企業文化の賜物である。ジェフ・ベゾスいわく「我々の成功は、毎日、毎週、毎月、毎年、どれくらい実験したかによるものです」。そうした実験の一つが、グレッグ・リンデンによる「おすすめ機能」の初期開発だった。

1997年にアマゾンに参加したグレッグは、スーパーマーケットがレジ脇にキャンディや冷たい飲み物、ちょっとした小物を置くことで顧客の衝動買いを誘っているが、同じことができないものかと入社早々から考えていた。

グレッグは、アマゾンの膨大なデータを活用すれば、すべての顧客に魅力的な商品を独自の品揃えで提供できると考えた。彼はさっそく、アマゾン・ドットコム内のショッピングカートのページのモックアップ(アプリやウェブサイトなどのデザインを視覚的に共有するためのビジュアルツール)を製作した。そこには、顧客ごとにカスタマイズされたおすすめ機能も含まれていた。

同僚たちはこのアイデアにおおむね乗り気だったが、影響力のあるバイスプレジデントがこの計画に反対した。グレッグが提案した機能は、チェックアウトのプロセスを複雑にするのではないかと懸念したのだ。そして、このアイデアを諦めるよう命じた。

普通の会社ならば話はそこで終わりだが、アマゾンでは意見よりもデータが優先されることをグレッグは知っていたので、そのまま続行した。ついにテストが始められると、状況は一転した。顧客たちはこのおすすめ機能を気に入り、大幅な売上増をもたらした。

現在(執筆当時)、このおすすめ機能が同社小売部門の売上高の約35%を稼ぎ出している。グレッグはこの躍進により、ジェフ・ベゾスからじきじきに中古のナイキのスニーカーが贈られる「ジャスト・ドゥ・イット賞」を受賞し、社内から尊敬の的となった。

この経験は、グレッグに重要な教訓を与えた。すなわち「誰もが実験し、学び、反復できなければならない。地位、服従、伝統が勝ってならない。イノベーションが花開くためには測定が絶対である」。

CEOがメンバー全員に実験を奨励したり、バイスプレジデントが実験データに従うように命じたりする姿を想像できるだろうか。おそらく無理だろうが、そうならない限り、あなたの会社がイノベーティブになることはないだろう。アマゾンの実験には忍耐力が要求されるが、官僚的な組織にはそのような価値観がとりわけ欠けている。

多くの場合、目的意識に乏しい。失敗を乗り越えるには大義が不可欠である。アルファベット傘下で自動運転車の開発を手がけるウェイモは、より安全でより効率的な移動を約束することによって、自律走行車の開発を10年にわたって探究し続けてきた。140年前、トーマス・エジソンが実用的な電球を開発したのも、暗い世界を明るくしたいという情熱があったからだ。

世界を変えたいという情熱があれば、実験も自然なことである。ベゾスは、アマゾンに「辛抱強く実験し、失敗を受け入れ、種を蒔き、苗木を大切に育て、顧客の喜ぶ顔を目の当たりにしたら、倍の喜びが得られる」というインセンティブが生まれたのは、顧客第一主義の企業文化だと評している。簡単に言えば、壮大な挑戦をしている時には、実験で失敗してもめげることなどない、ということだ。

アマゾンが、群がる新興ベンチャーに対抗できるのは、将来有望なチャンスを求めてやってきた何千人もの社内起業家を抱えているからだ。アマゾンは巨大企業になったが、「早く失敗し、早く学ぶ」という起業家の教義を忠実に守っている。