VCに学ぶ

ベンチャーキャピタリスト(VC)たちは、このことを承知している。典型的なVCは、十数社の新興ベンチャーに投資するまでに、1年間で1000社のビジネスプランに目を通し、100人ほどの起業家候補と面談している。

VCは、ポートフォリオ内の投資リターンがゼロである可能性が大きいことを理解している。実際、十数社のスタートアップの大半が何のリターンももたらさない。買収やIPOによってキャッシュアウト(現金化)されることもなく、したがってVCのリミテッドパートナーである投資家に資金が還元されることもない。

2008年から2010年の間に最初の資金調達を得た1098の新興ベンチャーを調査したところ、次のような結果が確認された。2017年までに、そのうちの70%は廃業もしくはかろうじて操業していた。1億ドル以上の評価額で買収または株式公開された企業は20社に1社しかなく、10億ドル以上の評価額を達成した企業はわずか5社で、全体の0.45%にすぎなかった(注8)

VCは、実験のポートフォリオに投資する。賭けのほとんどは何らリターンをもたらさないが、1つか2つが次なるエアビーアンドビーやスペースXに化けることを期待している。これが、ポートフォリオ内の大半がリターンゼロでも、平均リターンがプラスになる理由である。

我々が知っているところでは、ほとんどの企業がプロジェクトのリスクとポートフォリオのリスクを区別できていない。個々の実験の潜在力は、それぞれのメリットで評価され、実現可能性が高いものばかりである。これでは、ひょっとすると1000倍のリターンをもたらすかもしれないクレイジーなアイデアに投資することはないだろう。

生物学で真実であることは、ビジネスでも同じく当てはまる。組織が適応できるどうか、そのスピードは実験の数量と種類による関数といえる。
注8)“Venture Capital Funnel Shows Odds of Becoming a Unicorn Are About 1%,” CB Insight, September 6, 2018.