実験を全社的な能力へと引き上げる7カ条

実験は、ソフトウェア会社やオンライン小売業だけのものではない。トヨタ自動車の日本人従業員たちは、毎年100万件以上の改善案を提案している。これらの提案のほとんどは単なるアイデアではなく、すでに結果を出した実験の報告書であり、提案の95%は実装が承認される。では、その経済効果はいかばかりかというと、生産性が年間20億ドル以上向上している。

会社全体を研究所と見立てれば、どんなことが可能になるか、アマゾンとトヨタは教えている。これらの企業は、R&D部門や新製品開発部門以外にも実験ツールが与えられなければならないことを承知している。たとえばプロトタイピングは強力な実験ツールであり、全社的に身につける能力であるべきだ。そのためには、「教えて」ではなく「見せて」という精神が必要だ。

発泡スチロールで模型をつくり、ナプキンにスケッチし、絵コンテを描き、ビデオを撮影する等々——。多くの場合、コンセプトに形を与えていく中で、見えなかった欠点が明らかになり、アイデアを改善するチャンスが明らかになる。だからこそ、誰もが「つくり手」になるべきだ。袖をまくり、手を汚し、何かをつくり上げる。

そうすることで、脳と身体のつながりが活性化され、違った角度からアイデアを見られるようになり、より深い理解が導かれる。さらに重要なのは、顧客や同僚が何らかの反応を示してくれる実験ツールを提供することだ。

「芽が出ないドングリに注目せよ!」といった一見浪費的な実験は、官僚的思考を打ち砕く。たしかに知恵にあふれていれば、勝ち馬を見出し、行き詰まりを回避できるはずである。本当にそうならば。アマゾンもインテュイットも、ものわかりの悪い人はそう多くはない。そして、世界で一番頭のよい人間でも机の前に座ったままでは、未来を見つけられないことを承知している。

もしも、あなたの組織を「エクスプロラトリアム」(カリフォルニア州サンフランシスコ市にある科学博物館の名称で、探究と教室を合成した語)に変える準備が整っているならば、「まずやるべきこと」のリストを以下に紹介する。

①実験数を毎年10倍または100倍に増やすという社内共通のコミットメントを打ち上げる。あらゆるチーム、部課、事業部門に、実験数の暫定的な年間目標を設定する。従業員1人当たり年1回を目標にするとよい。

②各自が実験を企画し、実行するためのスキルを身につける。デザイン思考やラピッドプロトタイピングの教材は山ほどある。これらを組織全員が利用できるようにする。つるはしとシャベルを与えなければ、従業員はチャンスを探しに掘り進むことはしない。

③緻密な計画を練るよりも、実験を立ち上げることを奨励し、そのための資金を得る前提条件とする。実験を始めることに関心がない人には投資しない。

④チームメンバーが実験に投資し、立ち上げることを阻害している障壁を取り除く。自分のチームから始めて、まず少額で実験させてみる。新しいアイデアを追求するために、毎週数時間を確保することを奨励する。

⑤各スタッフ部門に対して、各部課の実験をどのように支援しているか、現場チームが新しいことに挑戦しやすくするために何をしているかについて、毎月報告を求める。

⑥実験が失敗した場合、その個人に累が及ぶ「リスクを回避」する。たいていの実験は失敗するものと再認識させる。結果がどうであれ、チームメンバーに対して、実験がキャリア上の功績として認められなければならない。

⑦あらゆる階層のマネジャー全員に、従業員たちの実験について面倒を見させる。かつ、こうした実験へのサポートを昇進の要件とする。一方で、自分の上司がどれくらいリスクテーキングや実験を促す環境を整えているかについて、従業員たちに上司を評価させる。

人生はじっとしているわけでもなく、破滅を待つわけでもなく、許しを請うわけでもなく、何かを企てるわけでもなく、ひたすら挑戦あるのみだ。あなたの組織もこうでなくてはいけない。つまり、人生と同じように、仕事でも実験的なことをやらせるのだ。エルビス・プレスリーは偉大な経営理論家ともいえるが、彼の言葉を借りれば「会話を少々減らして、行動を少々増やす」時なのだ。頼むから、何かやってみてくれないか。

©2023 Gary Hamel and Michele Zanini.
The article was published in Innovations: Technology, Governance, Globalization, volume 13, number 3/4 2023 of MIT Press.
 

◉翻訳|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部 論説委員)