興味深い現象なのだが、アスリートを誹謗中傷する人たちというのは、あまりご自分の言動を客観視できない。自分自身のことを「熱狂的なサポーター」「○○選手を何年も応援しているファン」という善の側だと思い込んでいるので、まさか自分がアスリートにとって「害」を与える存在になっているとは夢にも思っていないのだ。

 こういう「罪の自覚ゼロ」の熱狂的なファンに、既存の誹謗中傷対策が効果的でないことは、容易に想像できよう。

「AI監視システム」はあまり役に立たない。コメントを投稿する前に「これは誹謗中傷ではありませんか?もう一度落ち着いて確認しましょう」なんて確認画面が出たとしても「これは正当な論評だからな」と自分に言い聞かせて即座に閉じるだろう。

 また、発信者情報開示請求も効果が薄い。当たり前の話だが誹謗中傷をする熱狂的なファンの多くは「匿名」を武器に好き勝手なことを言っているので、身元がバレると素直に謝罪をして示談に応じるケースが多い。しかし、それはあくまで保身や世間体からの行動であって、心の中では「なぜ論評をしただけなのに誹謗中傷扱いされなきゃいけねえんだよ」という被害者感情が強くなり、マグマのように怒りがたまってしまう。

 その結果、身元がわからないような形で、より陰湿な誹謗中傷や別のターゲットへの攻撃が始まってしまう恐れがある。つまり、開示請求がさらなる「誹謗中傷モンスター」を生んでしまう可能性があるのだ。