なかなか難しいお願いごとが、なぜかすんなり受け入れてもらえている。そんな人がまわりにはいないだろうか。どうして、あの人はいつもそうなのか。もしかしてそこには、相手への「伝え方」の違いがあるのかもしれない。そんな誰もが感じていた疑問に見事に応え、日本、さらには中国でもベストセラーになっているのが、『伝え方が9割』(佐々木圭一著)だ。「伝え方にはシンプルな技術がある」と説く、本書のメソッドとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

伝え方が9割Photo: Adobe Stock

結果を変える「お願い」コトバがつくれる

「おかげで好きな人とのデートが実現できた」「提出物の締め切りを延期してもらうことができた」……。著者の佐々木氏のメソッドを知った人からは、そんな声が上がることも少なくないという。

 佐々木氏はコピーライターとして国内の賞を数々受賞、日本人コピーライターとして初めて米国広告賞で金賞、アジアの広告賞でグランプリになるなど、実績を持つ人物。

 CHEMISTRYや郷ひろみのプロデューサーから作詞のオファーが来て、アルバムがオリコン1位になったり、日本人クリエイターで初めてスティーブ・ジョブズお抱えクリエイティブエージェンシーへの留学生にも選ばれた。大学で教壇に立ち、伝え方のメソッドを教える講演も数多く行ってきている。

 ところが佐々木氏はもともと、コミュニケーションが下手だったのだという。広告代理店に大量入社した中で、たまたまコピーライターとして配属され、当初はダメダメ社員だった。そんな彼が、なぜヒット連発のコピーライターになれたのか。

 もがきながらも膨大な量のコトバに接していくうち、佐々木氏はこのことに気づくのである。

「心を動かすコトバには、法則がある」(P.34)
私の鼻息が荒くなっていたのは、小太りだったからだけではありません。私ははじめ、いいコトバは、天から舞い降りて来るひらめきが必要だと思っていました。でもひらめきやセンスによらず、強いコトバをつくれる法則の切れ端を発見したのです。(P.34)

 そして、コトバをつくれることが、コピーライターの仕事に活かせたというだけでなく、法則を知り、実践することで、結果を変える「お願い」コトバがつくれることにも気づいていくのだ。

「ノー」を「イエス」に変えるための3つのステップ

「人は1日に頼み事を平均22回している」と佐々木氏は記す。

「デートしてください」
「御社が第一志望です(入社させてください)」
「契約してください」
「結婚してください」
などなど。こういう勝負どころでは多くの人が、コトバを選ばずストレートに思ったそのままを言うことで成功と失敗をしています。運任せとも言えます。その大切なお願いを相手の気まぐれ次第にしないで、あなたのお願いのしかたで「イエス」の確率を上げるのが、この章の目的です。
(P.54)

 佐々木氏はこうも記す。「伝えたいのは、単に言葉が上手になることだけではない。あなたの人生を前に進ませたり、夢を叶える鍵を手に入れてほしいのだ」と。

「ノー」となるはずだったお願いを「イエス」に変える。そのためのステップは3つ。意外にも極めてシンプルで簡単なのだ。

今まで「ノー」だったものを「イエス」に変えるには、今までの方法をやめてみましょう。まずステップ1では、頭で思ったことをそのまま口にするのはやめることです。(P.57)

 では、どうするか。ステップ2は、そのまま口にするのをこらえ、相手の頭の中を想像する。

お願いに相手がどう考えるか/ふだん相手は何を考えているか、相手の頭の中を想像します。(P.58)

 そしてステップ3が、相手の頭の中をもとに、言葉をつくっていくこと。

ここで、大切なのは相手の文脈でつくることです。つまりお願いを相手に、「イエス」となるものにします。結果的にあなたの求めていることが達成できればいいのです。(P.59-60)

デートしてもらうのが難しそうなら

 例として紹介されているのが、「デートしてほしい」という思いだ。

「ノー」になりそうだとすると、そのまま口に出してもデートはしてもらえそうにない。だから、思ったことをそのまま口にするのは、やめる。これがステップ1。

 ステップ2では、相手の頭の中を想像する。何が好きか。何が嫌いか。どんな性格か。わかりうる相手の基本的な情報を思い出してみる。例えば、ここで「初めてのものが好き」「食べ物はイタリアンが好物」という情報があったとする。

 そしてステップ3では、相手の頭の中をもとに、言葉をつくっていく。

 相手が「初めてのものが好き」「イタリアンが好き」であるなら、それを満たすコトバをつくります。

「驚くほど旨いパスタの店があるんだけど、行かない?」(P.60)

「初めてのものが好き」「食べ物はイタリアンが好物」という相手にとっては、まさに頭の中で望んでいること。だから、「イエス」となる可能性が高くなる、というわけだ。

 実際には、デートという言葉は出てこない。しかし、結果としてパスタの店にいくことはデートになる。つまり、この3ステップは、相手のメリットと一致するお願いをつくる方法になるのだ。

 3つのステップは、どんなお願いにも万能だという。デートのお願いだけでなく、仕事の依頼、残業のお願い、自治会ミーティングへの参加のお願い、子どもに勉強して欲しいというお願い、領収書をおとしてほしいというお願い。

 それが、お願いを「イエス」変えるための「7つの切り口」とともに紹介されている。

「相手の頭の中を想像する」ときの、とっておきな切り口があります。相手の頭の中を想像したときに、最も相手の心が動くであろうものを選択するだけでOKです。(P.63)

 その「7つの切り口」が以下だ。

・「相手の好きなこと」
(例:「驚くほどうまいパスタどう?」)

・「嫌いなこと回避」
(例:「芝生に入ると、農薬の臭いがつきます」)

・「選択の自由」
(例:「驚くほどうまいパスタの店と、石窯ピザの店どちらがいい?」)

・「認められたい欲」
(例:「きみの企画書が刺さるんだよ。お願いできない?」)

・「あなた限定」
(例:「他の人が来なくても、斎藤さんだけは来てほしいんです」)

・「チームワーク化」
(例:「いっしょに勉強しよう」)

・「感謝」
(例:「いつもありがとうございます。領収書をお願いできますか」)

 この「7つの切り口」を知っていれば、相手の頭の中をグッとイメージしやすくなる。まさに、実際に使えるメソッドになるのだ。

(本記事は『伝え方が9割』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。