新しい商品やサービスが生まれる起点は、既存にあるモノ・コトに対する不満。その不満をしっかり見出し、ビジネスの「新しい課題」としてとらえられるかどうかです。今から30年以上前のこと。意気揚々と臨んだ日本IBMの入社式で聞いた言葉を、私は今でも座右の銘にしています。
「Glorious Discontent」(栄光ある不満)
つまり、上司や先輩が教えることはそれが正しいとは限らない。現状で満足せずに、もっといいやり方があるのでは、もっと楽しいやり方がきっと見つかるはずと、「前向きな不満」を抱けという、当時の社長の訓示でした。
日本の教育は、学校の先生の言うことが「正解」と教えます。生徒は先生に口答えすることができず、「言われたことをきちんとやれ」と言われ続けてきました。その点、アメリカでは先生はファシリテーターに近い。確かに、知識や経験は生徒より持っていますが、生徒からひょっとするといいアイデアが生まれるかもしれないというスタンスです。だから、クリエイティブなことや人と違うことを高く評価します。
アップルのスティーブも、オラクルのラリーも、現状に満足しないことから新たなビジネスを創造してきました。ラリーはIBMが作ったデータベースが、検索するのに相当時間がかかることに不満を持ち、構築を簡単にすれば検索が速くなり、地球上のすべてのデータが管理できるはずだとして新たなデータベース・ソフトウェアを開発したのです。
ビジネスには終わりというものがありません。「ここまでやれば十分だ」というのは、永遠に訪れることはないのです。私が携帯電話をはじめて購入したのは1995年ですが、まだ20年も経過していないのに、恐ろしいほどの進化を遂げています。
しかし、今のスマートフォンに誰も満足はしていないでしょう。もっと通信速度が速くなるべきだ、画面がもう少し大きくなってほしい、使い方が難しい、まだまだ重い、バッテリーの消費が速すぎる……など、人間は常にディマンディング(多くを要求する)な生き物です。
すべてのビジネスは最終的に人間を相手にしますが、人間を相手にしている限り、永遠に完結することはありません。薬なら苦くないもの、痛くないもの、副作用のないものへの欲求はまだまだ満たされていませんし、車なら燃費のいいもの、カッコいいもの、安全なものといったニーズを完璧に叶えてくれるものは登場していません。ビジネス活動はこうした人間の欲求への絶えまぬ挑戦の連続です。