iPodからiPhoneまで、アップル復活の舞台裏を知る「唯一の日本人経営者」が、アップル退社後に初めて語る「これからの世界」での働き方。人と企業を成長させるのは「前向きな不満」である。では、止まらず新たな課題を生み出し続けるために必要なこととは何か?
「新しい課題」を自らつくり出せることが才能である
アップル時代、しばしば知らない外国人から突然電話がかかってきました。
「こういう部品を見つけたのだが、何とか手に入らないか?」
「この会社と交渉したいのだが、何とかしてくれ」
いきなり見知らぬ人からの電話なので面食らいます。「お前、誰なんだ!?」と何度となく聞いたものです。彼らは「日本で困ったらケンジに頼めと聞いている」と、国際スパイのように詳しいことは教えてくれず、そう答えるばかりです。
彼らは世界中を飛び回って、アップルの課題、例えば「MacBook Air」の薄さを実現する部品を探し出す要員なのです。日本においても地方までくまなく調べ、最適な部品を最適な価格で購入できるメーカーをいつも探しています。
例えば、iPhone の裏のシルバー素材。これは鏡面仕上げのデザインにこだわって、刃物などの産地である新潟県の燕三条で作っています。MacBook Air は厚さ約17ミリという薄さを実現したノートPCですが、この薄さを生み出すまでに、血のにじむほどの企業努力がありました。
2010年の発売後、数年がたちますが、いまだにこの薄さを超えるウルトラブックが生まれていないことからも、いかにアップルが執拗に薄さを追求していたかがわかるはずです。もちろん、MacBook Air は薄さだけにこだわっているわけではありません。ユーザーがもっと手軽に持ち運べる理想のデバイスとは何か、という問いは、現状に対する不満への答えの一つであって、いまだ完成しておらず、今なお完成型を追い求めています。