(3)「日本は例外」という言い訳を一切しない

 答えとしては、YESかNOだけがメッセージです。明確に返答した後に、期間の問題や、考慮・配慮すべき点について、追加で相手の考慮を促す話の進め方が理想的です。はじめからYESと言わず、日本人お得意の「できない理由と事情の連呼」では交渉は何も始まりません。この未練たらしい話し方があなたへの尊敬を打ち消します。

 日本人の主張はわかりにくいし、都合がよすぎるところがあります。グローバルの一員にはしてほしいが、自分たちの生き方や価値観は譲れない、商習慣として存在するのだから仕方がない、私(たち)が悪いのではなく、日本には独特のルールがあるのだなど……。これでは一生懸命、下手な英語で「日本はグローバルになれない」と自ら宣言しているのと同じです。

 グローバルの相手と交渉するためには、自分の都合のいいことを主張するだけでなく、自分たちもグローバルに適応するために変化することをそろそろ学ぶべきです。

(4)媚びているだけの人間は尊敬されない

 いくら今は英語が下手でも、あるいは身長が低くても、それは仕方がないことです。しかし、人対人の交渉なのですから、媚びてばかりでは話し合いはできません。自信とプライドを持って、常に交渉決裂という最悪のケースを念頭に置いて交渉の場に臨むことも大切です。駄目なものは駄目、残念だが今回はさようならというくらいの覚悟があるかどうかは相手に見抜かれます。

 日本のビジネスでは、比較的「自己」という概念がない状態で話し合いをしますが、外国人相手の交渉では、こちらがどれほどの自己や自我を持って向き合っているかというのが、交渉を大きく左右することを知っておいてください。

(5)主義主張は誰のためかをはっきりさせる

 交渉は大変ですが、常に基本に立つことも大切です。自分の保身でなく、お客様や社員の立場に立って発言していれば、やがて信頼される日がくるはずです。こちらと同様に、相手にも抜き差しならない事情があります。どうしてもここだけは譲れない線というものがあるのです。

 自己を持つというのは、自分の言いたいことだけ強く言えばいいということではなく、相手の意見も素直に「聞く」ということも重要です。交渉上手は押し上手と思われますが、それは一方的に主張を押しつけるという意味ではまったくありません。

 交渉、交渉と肩に力を入れて構えるのではなく、相手に興味を持ち、強い好奇心を持つことからコミュニケーションは始まるのです。相手の立場、都合、その日の落としどころを理解すれば、自分の交渉ポイントでの勝ち負けが見えてきます。

 全体の勝ち負けにこだわりすぎると、100点満点を目指す交渉となったり、つい高圧的な態度になってしまいますが、何でもかんでも押しつけたり、受け入れたりするのではない、両者が勝利したと感じられる積極的な妥協点を見つけることが大切です。(第9回に続く)

次回は5月13日更新予定です。


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山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となり、BtoBの世界の巨人、ラリー・エリソンと仕事をする。2004年にスティーブ・ジョブズと出会い、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで関わり、アップルの復活に貢献。
現在(株)コミュニカ代表取締役、(株)ヴェロチタの取締役会長を兼任。また、(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)リザーブリンク、(株)Gengo、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。その他、私塾「山元塾」を開き、21世紀の坂本龍馬を生み出すべく、多くの若者へのアドバイスと講演活動を行っている。
著書に『ハイタッチ』『外資で結果を出せる人 出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、共著に『世界でたたかう英語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。