同じことが語られているのは
60年間実現しなかったから

 また施政方針演説の直前の1963年1月14日に経済審議会が提出した『人的能力政策に関する答申』は、「経営秩序近代化の第一歩は、従来なかば無規定的であった労働給付の内容を職務ごとに確定すること、すなわち職務要件の明確化にはじまる」と述べた上で、「今後の賃金制度の方向としては、公平な職務要件にもとづく人事制度を前提とする職務給が考えられる。すなわち職務給のもとで職務評価によって公平に職務間の賃率の差を定めることができるとともに、個個の職務においては同一労働同一賃金の原則が貫かれる」と、職務給こそがあるべき賃金制度であることを高らかに宣言していたのです。

 60年前に池田首相によってこれだけ熱心に職務給の導入が説かれていたにもかかわらず、60年後にその大後輩の岸田首相によって全く同じことが説かれなければならないのはなぜか、といえば、それが全く実現しなかったからです。1960年代には経済界も政府と同様、あるいはそれ以上に熱心に職務給導入の旗を振っていたのですが、1970年代以降は職能資格制度に基づく職能給を進めるようになってしまい、職務給は誰からも見捨てられた存在になってしまいました。