戦後期の急進的で対立的な労働運動ならともかく、高度成長期以後の穏健で労使協調的な労働組合には、企業経営を圧迫する人件費そのものの膨張を要求することはそもそも困難なのです。第2次安倍政権、岸田政権と、過去10年の賃金引上げが官邸主導による官製春闘とならざるを得なかったのも、ベースアップという日本独特の賃上げ方式の本質に根ざすものであったというべきでしょう。
1人ずつ賃上げ額を決める
個別賃金要求の方式
では今後の賃上げはどういう方向に向かうべきなのか。企業単位の支払能力という枠とは無関係に、「この労働者にはこれだけの賃金を支払え」という形で要求を組み立てることを、個別賃金要求といいます。
実は戦後日本の賃金闘争の歴史は、ベースアップを主旋律としながらも、常にそれに代わるものとして個別賃金要求が提起され続けた歴史でもあります。労働者1人ひとりにとっては平均額でしかない企業全体の人件費の増加分をベースアップとして要求するのではなく、個々の労働者の銘柄ごとに、彼はいくら、彼女はいくらと具体的な賃金額を決めて要求していくというスタイルです。
問題は、その「銘柄」です。