連合によると、2024年の春闘は賃上げ率が30年ぶりに定昇込みで5%を上回った。また、10月から最低賃金は過去最大の51円引き上げられ、全国加重平均は1055円と初めて1000円を超えた。物価高で実質賃金の低下が深刻さを増すなか、企業の賃上げへの取り組みは進んでいる。だが、賃上げは企業の利益水準を押し下げる。「人手不足」による倒産が過去最多をたどるなか、果たして今後も持続的な賃上げを維持できるのか。特に中小企業は「賃上げによるコストアップ」と「人手不足」の二つの経営課題で板挟みに苦しんでいる。(東京商工リサーチ情報部 小川愛佳)
賃上げ実施率において
広がる企業規模間の格差
東京商工リサーチ(TSR)が8月に実施した企業アンケートで、2024年度に賃上げを実施した企業は84.2%だった。定期調査を開始した2016年度以降、最高だった2023年度の84.8%をわずかに下回った。
とはいえ、官製春闘で高い賃上げ実施率を維持していたコロナ禍前を超え、引き続き高水準の推移に変わりはない。
ただ、ここで気になるのは企業規模間の格差だ。大企業は賃上げ実施率が過去最高の94.0%と、初めて9割台に乗せた。人手不足が著しい建設業(実施率97.2%)や運輸業(同97.4%)、円安を追い風に好況が続く製造業(同97.3%)では、大企業のほとんどが賃上げを実施している。
一方、中小企業は82.9%と前年度から1.3ポイント下落した。中小企業は、コロナ禍で過去最低の賃上げ実施率55.9%にとどまった2020年度を底に、賃上げ率は回復に転じ、2022年度はコロナ禍前を上回る水準まで上昇した。だが、ここにきて中小企業の持続的な賃上げに停滞感が見え始めた。
背景には、中小企業の「賃上げ疲れ」がある。