生物のイメージ写真はイメージです Photo:PIXTA

多彩な分野の専門家による知識がコンパクトにまとめられた「新書」。高橋昌一郎氏が責任を持って選び抜いた価値ある新書100冊の中から、『禁断の進化史』と『「顔」の進化』の2冊を紹介する。※本稿は、高橋昌一郎『新書100冊 視野を広げる読書』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

キリンの首は
なぜ長いのか

『禁断の進化史』(NHK出版新書)

『禁断の進化史』(NHK出版新書)を読んで筆者はこう思う。

 旧約聖書『創世記』によれば、「神」は、光と闇、天と地、海と植物、太陽と月と星々、海の生き物と鳥、あらゆる生物を6日間で創造し、最後に「自身の姿に似せた」最初の人間「アダム」を創造した。これが「創造論」である。

 現代の創造論者は、そこまであからさまな「神の創造」ではなく、「インテリジェント・デザインに基づく創造」だと主張する。生命誕生の背景には、神話的な「神」よりも「知的設計」があったと言う方が布教しやすいからかもしれない。何らかの意図で人類が創造されたとみなすのが「目的論」である。

 ここで、キリンを考えてみよう。創造論者は「高い木の葉を食べるのに便利なように首の長いキリンを神が創造した」と主張し、目的論者は「高い木の葉を食べるためにキリンの首が長くなった」と主張する。

 ところが、「進化論」によれば、突然変異で生じた首の長いタイプのキリンは短いタイプのキリンよりも高い木の葉の食用に適していたため、より多くの子孫を残し、結果的に首の長い種に置き換えられていった。つまり「首の長いキリンが高い木の葉を食べるのに適していたため生き残った」とみなすのが「進化論」である。

「創造論」と「目的論」が間違っていることを立証するためには、生物の「脳」を観察すればよい。脳の起源は、およそ5億年前のホヤに出現した「神経管」にあり、魚類・両生類・爬虫類では脳の大部分を膨らんだ神経管である「脳幹」が占め、鳥類・哺乳類になると「小脳」と「大脳」が巨大化し、霊長類で大脳に新皮質が発達して初めて高度な知性が生じた。

 非常に簡略化してしまえば、トカゲの脳に大脳辺縁系を継ぎ足したものがネズミの脳で、それに新皮質を継ぎ足したものがヒトの脳である。新たな機能が継ぎ足されてきたヒトの脳には、生物の進化の歴史が刻まれている。もし最初から「知的設計」で製作されていたら、脳はここまで「継ぎ接ぎ」にならなかったはずではないか!