「低評価の解答例」は、「子どもたち一人ひとりが持つ豊かな才能や能力を伸ばしていくために、あなたは教員としてどのように取り組むか」を聞かれているのに、ひたすら「外国語教育にどう取り組むか」を論じています。

出題内容を強引に自分の書きたい方向に誘導して、事前に用意した筋書き通りに書いているのです。

一文目の「子どもたちはそれぞれが豊かな才能・能力を持った存在であり、教員には、それを伸ばしていくことが求められる」は、問題文が問うている「一人ひとりが持つ豊かな才能や能力を伸ばす」に沿っています。

しかし、二文目の「特に近年では国際化が進む中、外国人と触れ合う機会も増えており、小学校でも外国語教育に力を入れていくことが重要だ」で一気に出題の趣旨から外れて、「外国語教育」という自分が書きたい話に誘導していることがわかります。

こうした答案を書く人は、学習指導要領などに書かれてある内容、たとえば「言語能力の育成」「伝統や文化に関する教育の充実」「外国語教育の充実」などのテーマであらかた答案の筋書きを決めておいて、出題の意味を考えずにそちらに話を誘導しているのです。

「子どもたち一人ひとりが持つ豊かな才能や能力を伸ばす」というのは、どんな分野であれ、その子が伸びそうなことを見つけてその力を引き出すことです。ですから、外国語教育に限定した書き方をするのはおかしいのです。「話のすり替え」が起きています。

見当はずれの「こじつけ解答」は二重の意味で評価を下げる

学習指導要領や教育関連の資料に出てくるキーワードに強引に結びつけて書くという例は、これに限らず、「主体的・対話的な学び」「ICTを使った授業展開」「学校と地域との連携」などたくさんあります。

もちろん、これらのキーワードを使うのにふさわしい出題であれば使ってよいわけですが、たとえば「子どもたちの一人ひとりの豊かな能力を伸ばしていくためにどうすべきか」という出題で、「学校と地域との連携を進めていくべきだ」と書いたら、明らかに見当はずれです。

見当外れであるだけでなく、強引にこじつけて書いていることが採点者にわかりますから、二重の意味で評価を下げます

とりわけ教員試験では、基本的に出題テーマが教育論などに絞られているので、「あらかじめ用意したストーリーで書こう」ということが起きやすいのです。

教員試験を受ける人が学習指導要領の中身に目を通しておくのは大事なことですが、問題文の意味と出題の意図を理解せずにその中のキーワードを使ったら、見当はずれの解答になります。

同じようなことは昇進試験でも見られます。

私の塾であった例ですが、「昇進試験を受けることになった。前もって答案を用意して本番に書こうと思うので、この答案を指導して欲しい」と言う人がいます。

これはまったく意味がありません。、「こういう出題だからこう書く」と考えなければいけないのであって、「問題が何かわからない状態」で書いた答案には意味がありません。

文章自体がどんなに整っていても、出題に対して正面から答えていなければ、決して良い評価はつきません。もちろん問題が何かわからなければ、答案の指導をすることもできません。

にもかかわらず、「小論文は文章の型が整っていれば良いのだ」と考えている人が少なからずおり、私は文章の指導者としてとても深刻に受け止めています。

『落とされない小論文 増補改訂版』では、このように、受験者がやりがちなミスとその改善策をすべて「before→after形式」で解説し、最短で合格ラインに到達するためのスキルと知識を網羅的に解説しています。