特集「日本の山が危ない 登山の経済学」(全6回)の第4回では、登山用品ブランドとしては国内最大級に成長したモンベルを取り上げる。登山家でもある辰野勇会長に、その事業の要諦と経営を支えたもの、さらに日本の山の課題について聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
※2019年10月9日に公開した有料会員向け記事を、1カ月の期間限定で無料公開します。全ての内容は初出時のままです。
「山に関わる仕事が好き」な社員は
財務諸表に出ない財産だ
――メーカーながら全国130の店舗を持つ、登山用品店としては事実上最大規模のチェーンに育てました。
僕もそうですが登山専門店は、だいたい登山家が「山道具に囲まれて商売したい」と起業したところばかり。ただ、将来後継者問題に悩まされるだろうなと、創業時にすでに予想していました。毎年若い新入社員を迎え続け、平均年齢を下げるためには成長しなければならない。会社をつぶさないために必要な規模を考えたとき、30年後までに売上高を当時の登山市場500億円の20%である100億円にすることを目標にしました。実際には30年で200億円、現在はグループで840億円の売上高となりました。
ありがたいことに、モンベルがまだ小さな会社だった頃から、高学歴の「山好き」が集まりました。会社の安定ではなく、山とアウトドアが好きな人が、情熱を持って仕事に当たってくれている。これは財務諸表に出ないモンベルの資産だと思います。出店も実は決まった計画はなく、先方から出店依頼があった案件を精査し、採算が取れると判断したら受動的に出しています。店舗でお客さまに正確な説明ができる人がいなければ、むやみに拡大はできません。モンベルの商品は薬と一緒です。登山用品もカヌー用品も正しく使用しなければ命に関わります。
――創業3年で海外進出に踏み切っています。
30年で日本の登山市場が伸びず、売上高100億円の目標が達成できそうにないとなったときに、海外でもビジネスをやっていれば補完できると考えたからです。海外に認められる品質かどうか力を試してみたいという思いもありました。米パタゴニアにはウエアの特殊素材や縫製技術を提供していたこともあります。現在の海外事業は直接販売とライセンスを合わせて100億円くらいの事業規模に育っています。