「人材不足が深刻であれば、アルバイト代を余分に支払うより、業務が滞る損失の方が大きいのではないですか?それに自社の社員なら働きぶりが分かっている分安心ですよ」

「そうか……。特に週末のアルバイトが足りなくて、配送に遅れが出ている分、取引先からクレームが来ています。求人は民間の有料求人サイトを利用しており、時々応募はあるのですが、面接に来なかったり、採用後に問題を起こす人がいたりして、なかなか定着しません。その苦労に比べたら、確かにいい方法かもしれません」

 C部長は納得した表情を浮かべた。

「となると……。Aさんが物流センターで働く場合、新たにアルバイトとしての労働条件通知書兼雇用契約書が必要ですか?」

「労働時間的には正社員が超過勤務をした扱いになるので、新たな契約はしなくても構いません。従前の雇用条件に物流センターでの業務内容、就業場所や時給などを追加した契約書等を作成し、取り交わすことになります」

 D社労士のアドバイスを受けたC部長は、Aが申し出た通りの内容で9月から物流センターのアルバイトを許可した。Aは「やった。これでお小遣いが増えてコンビニ弁当が買えるし、サーフィンも復活できるぞ」と喜び、その後本業とアルバイトに精を出した。

 9月下旬。Aが物流センターのアルバイトを始めてから、その様子を見た8人の社員が「自分も物流センターで働きたい」と申し出て、休日にアルバイトをするようになった。皆テキパキとよく働くし、甲社の社員なのでセンター長とのコミュニケーションも取りやすい。人手不足の解消にめどがついたので、C部長は10月から有料の求人広告を取りやめることにした。

「求人広告の支払いがなくなれば、皆に割増賃金を払ってもおつりがくる。かえって経費削減になったぞ」

 C部長は電卓をたたきながら上機嫌になった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。