ルーム・トゥ・リードは
“忘れられた言語”で本を出している最大の出版社
ルーム・トゥ・リードは、開発途上国で母国語による児童書の出版にも積極的に取り組んでいる。そもそも、本を読む人々がいない国や地域では、出版がビジネスとして成り立ちにくいという問題がある。
「途上国の人々が1日200円以下で生活しなくてはならないのは、彼らが怠け者なわけでも頭が悪いのでもなく、私たちが当然のように持っているものにアクセスできないからです。ルーム・トゥ・リードは、途上国の“桃太郎”や“ハリー・ポッター”を作り出すため、現地の作家やイラストレーターによる母国語の児童書を出版しています」
ルーム・トゥ・リードはまさに、「“忘れられた言語”で本を出している最大の出版社」なのだ。
ウッド氏は、会場に向かって「みなさんが内戦後のカンボジアに生まれた6歳の少女だったら、あるいは8歳でネパールに暮らす少年だったらと想像してみてください」と語りかけると、ルーム・トゥ・リードが出版を手がけた児童書のカバー画像をスクリーンに次々と表示した(右写真)。
「子どもたちがどれほど興奮して本を読んだか、おわかりいただけるでしょう。ルーム・トゥ・リードでは、これまでに850ものオリジナルの本を出版してきました。現地語の児童書は、1冊100円で出版できます。億万長者でなくても、セレブリティでなくても、世界を変えることを手伝えるのです」と訴えた。
「どんな状況でも、より多くのやるべきことやる」。ルーム・トゥ・リードに根づいた考え方を、ウッド氏は「GSD(=Get Stuff Done, “つべこべ言わずにやることをやれ”の意)の精神」と呼ぶ。
GSDの精神をよく表しているのが、バングラデシュでの活動だ。同国には、「チョール」と呼ばれる川の中洲で暮らす約500万人の人々がいる。
チョールでは作物がほとんど育たず、突然の洪水に家がのみ込まれることも少なくない。住むには危険が伴うが、土地は不足しており、貧しい人々はチョールの生活から逃れることができない。
雨期が始まると川を渡れなくなるため、子どもたちは学校に通えなくなってしまう。2010年にチョールを現地調査したときは、中等教育を受けた少女が1人もいなかったという。
「そこで、バングラデシュの私たちのチームは“GSDモード”になって解決策を見出しました。それが『ボート・トゥ・リード』です。漁に使われていた船を改造し、そこに本を載せて、子どもたちが読書をしながら学校に通えるように手助けしています。今では、このボートに乗って、何百人もの女子たちが学校に毎日通っています」
川を渡れず学校に行けない子どもたちのためにルーム・トゥ・リードが編み出した秘策が「ボート・トゥ・リード」だ。