2013年9月、日本で初めての全寮制インターナショナルスクールが軽井沢に開校する。高校1~3年生まで、各学年50名程度という少人数制ながら、アジアを中心とした世界各国から生徒を募集、各分野で次世代をリードする子どもたちを育てる。そんな学校の設立に奔走しているのが、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団の小林りん代表理事だ。
現在の日本では、競争や変化を好まない若者が増え、教育システムを大きく変革しなければ、急速なグローバル化や情報化への対応さえ難しいとも言われている。そうしたなかで同校が行う「次世代を担うリーダー教育」には、これからの日本教育が参考にすべき要素がたくさんありそうだ。そこで今回は、当連載のナビゲーターであるネットイヤーグループ石黒不二代社長とともに同校の教育プログラムを探り、日本に必要な「次世代を担う人材教育」の姿を模索していく。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子、撮影/宇佐見利明)
貧困層教育だけで社会は変わらない!
リーダー教育こそが変革を導く
――現在、小林さんは2013年に開校するインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢の準備をされていらっしゃいます。なぜこの学校を作ろうと思われたのですか。
小林 前回お話ししたように、カナダへ留学していた高校時代、世界各国の貧しい人たちの暮らしを知って衝撃を受け、自分の恵まれた環境に感謝したことが原点になっています。ただ、直接的なきっかけは、前職の国連職員時代に駐在していたフィリピンでの経験にあります。
私はもともと、「貧困層の教育水準向上こそが、選挙を通じて国家の変革を導いていく」と考え、貧困層教育に取り組んでいました。フィリピンには日中はゴミ拾い等をして働くストリートチルドレンがたくさんいます。学校教育は無償なのですが、彼らは1日数十円の報酬のために働かなくてはならず学校にいけないのです。国連は、そうした子どもたちのために夜中や週末に公園の片隅や橋の下で読み書きそろばんを教えるプロジェクトを長年サポートしていますが、フィリピンでは年間1万人近い子どもたちを対象に活動していました。家族のなかで1人でも普通に働けるようになれば、全員家族が暮らせるほどの収入が得られるため、彼らは必死で勉強をしに通ってきました。収入が得られるようになった子どもたちからは、とても感謝され、やりがいを感じていました。
しかしその一方で、フィリピンには富裕層に有利な税制があり、選挙のたびに汚職がはびこり、未来に失望し母国を去る中間層も数多くいます。こうした現実を見て、もちろん貧困層教育も重要ですが、貧困層の子どもたちが一生懸命勉強をしても社会の仕組みや会社の雇用体系が変わらないと“焼け石に水”ではないかと感じました。そして社会が大きく変わるためには、リスクや変化を恐れることなく、新しい価値観を生みだすことに喜びを見いだせるリーダー層の教育が不可欠なのではないかと思い始めたのです。それが、この学校づくりに携わることになった直接的な動機です。
とはいえ、高い能力と志を持つ人たちのために一流の教育を用意しようとすると、授業料が高くなり、それゆえに通えない人が出てきてしまいます。そこで、奨学金を準備して、あくまでも能力を重視して質の高い教育と機会均等を両立できる体制を目指しています。