利用体験は仕事へのエンゲージメントを高める
先ほど紹介した、筆者がかつて勤めていた自動車会社では、実験部の協力をとりつけ、海外向けも含めたクルマを揃え、東京近郊のテストコースで自社のクルマを体感する社内試乗会を開催したことがある。
この取り組みは大変好評で、普段は書類上でしかクルマに触れることのないスタッフからも「愛着が湧いた」「海外の関係会社の人たちとのコミュニケーションが楽しくなった」などのコメントを多数もらうことができた。試乗体験をしたスタッフが実家に帰省した際に自分の言葉で運転体験を伝え、親御さんがそのクルマを購入してくれたエピソードも生まれた。
また、試乗会に協力してくれた実験部のスタッフやベテランの管理職も、本社の社員が楽しそうに試乗する姿を見て感化され、回を重ねるごとにこだわりが出て社内試乗会はよりよい場へと進化していった。実験部のスタッフも、自分たちの仕事に対する誇りが強くなった様子だ。
このように、自分たちが取り扱っている製品やサービスをよりよく知ることは仕事に対する愛着や帰属意識を高める。日々、やり甲斐や誇りを持って仕事をすることができるようになる。
使う、知る、学ぶ場を創る
何らかの形で、自分たちが取り扱っている製品やサービスの利用体験はあったほうがよいだろう。社内で自社製品に関連する知識を深める勉強会を開いている企業もある。
かまぼこなどの練り物で有名な老舗企業、株式会社鈴廣蒲鉾本店(神奈川県小田原市)は社内で勉強会を開き、魚肉たんぱく質に関する知識を深めているという。社員は自社製品のラインナップや特徴、調理法の知識を身につけるのみならず、魚肉たんぱく質の優れた点を理解することで、より自信を持って製品に向き合うことができているそうだ。「自分たちの仕事は世の中の人を健康にする仕事だ」という意識も高まっている。
全社で取り組むのが難しければ、チーム単位でも自社製品やサービスを皆で触ってみる、あるいは関連知識を深めるなどの場を、人材交流も兼ねて設けてみてはどうだろう。
ユーザーの声を聞くだけでも意味がある
BtoB企業なら、たとえば新製品開発プロジェクトに携わった人たちに開発秘話を聞いてみたり、お客様が使用している現場を見学させてもらったりしよう。
開発体験や利用体験を間接的に見聞きするだけでも、自分たちの仕事が誰にどう貢献しているのか、意味や手ごたえを感じるようになる。行政機関なら、自分たちの行政サービスや施策を受けている人たちの声を聞いてみたり、他都市の行政が主催している地域イベントに参加してみたりするのはどうだろう。
業種や業態にかかわらず、自分たちの仕事の成果を身近に感じられる機会は工夫次第で創ることができる。少しでも好きになれたほうが、日々の仕事も楽しくなるし、仲間に対しても優しくなれるだろう。
・自社の製品やサービスを体験してみる
・自社製品やサービスの体験会・勉強会を開催してみる
・BtoBなら、開発者やユーザーなどの話を聞くなども手
(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。