「会社を潰してしまわないか心配」稲盛の吐露

 強いリーダーがもてはやされるアメリカにおいて、「私は不安である」とか「近いうちに潰れるかもしれない」といった弱音を吐露することは、たとえビル・ゲイツほどの実績と能力を持っていたとしても、市場関係者からの信頼を損ねることになるようだ。稲盛氏は、次のように続けている。

《私も小心者で、会社を潰してしまわないか心配で心配でたまりませんでした。そして今日まで、もうこれでいいと思ったことは一度たりともありません。会社を経営して人様からお叱りを受けたことがなかったのも、人から指摘を受ける前に先回りして問題を解決しようとしてきたのがよかったのだと思います》

 ソフトバンクの孫正義氏ほど大胆な浮き沈みがある人生ではないが、稲盛氏のように、安定した中でも常に危機感を持ち続ける様は、多くの人々を惹きつけるのではないだろうか。

 私はというと、失敗のない人生にはどこか退屈さを感じてしまう一人だが、稲盛氏の視点から見れば、それは浅はかな自己満足に過ぎないのかもしれない。稲盛氏は多くの従業員の人生を背負いながら、経営に対して徹底的に真摯な態度を貫いてきた。その姿勢に改めて感銘を受けた次第である。