――締め切りを憎みながら、愛する。

 期限を設けられないと書けないんです。夏休みの宿題みたいなものです。計画的にコツコツと文章を積み重ねるみたいなことは苦手で、締め切りが迫ってきて、ようやくエンジンがかかります。その日までに終わらせなければいけないけれど、「本当に終わるのか?」と自分でも疑いながら、なんとか書き終える。締め切りがなかったら、一生書き終えられないと思います。

 僕の苦しみは大きく分けると3段階ある気がします。「何を書こう」という苦しさと、「どう書こう」という苦しさと、「どうしたらよりよくなるんだろう」という苦しさです。締め切りが近いのに、「何を書こう」すら突破できていないときはお腹が痛くなります(笑)。

「何を書こう」が出てこないときは、頭の中の引き出しが空っぽの状態だと思うので、一度使った引き出しの奥の奥のすみっこにホコリみたくなっているやつからなんとか創り出すのか、実は開けてない引き出しがあることを見つけるのか、もしくは新しい引き出しをつくるために何かをインプットするのか、言葉にすればそういういくつかの方法が浮かぶのですが、浮かばないときはとんと浮かばないものなので、それはただただ苦しくて、どう突破しているのかも毎回わからない感じでいることが多いですね。

書けない時間は
ムダな時間ではまったくない

――「どう書こう」という苦しみとは、どういうものですか。

 3つの苦しさの中で、最も苦しいです。プロットまで書き出したものの、ぜんぜん物語が展開しなかったり、プロット時点よりも退屈に感じたり、この物語はどこにいくんだろうと迷子になったりするので、5時間で2行しか書けなかったりといったことがザラにあります。

 それでもなんとかページ数が増えていって、でもこれはもしかしたらやり直すかもしれないとか、面白くないかもという、頓挫しそうな、心が折れそうなところを踏ん張りながら、最後まで書き切らなければいけないというのは、メンタル的にすごく大変です。

 自分は気分転換がヘタで、作家さんの中にはアイデアが浮かばなかったら散歩に行ったり、飲みに行ったりする人が少なくないと思いますが、それができない。