基本はずっと画面の前にいて、浮かばない、浮かばないと悩み続けて、仕事部屋から出ない。浮かぶまでは出たくない。耐えて虚無を過ごすパターンが多いです。
僕の中では、書けない時間はムダな時間ではまったくないというのは結論が出ています。どんなに書けなくても、どこかでいつか書ける。そのスイッチが何かはまったくわからないんですけど、1週間後か、1カ月後かもしれないですけど、ちゃんといつかスイッチが入る。それを信じてモヤモヤし続けるというのが、僕の中の現時点での答えです。
――モヤモヤが解消される瞬間はどんな感じですか。
ふとした瞬間に、これなら書けると思えるときが訪れます。複雑にからまった糸の中の1本を引っ張ってみたら、スーッときれいにほどけてまっすぐになる感じです。それはシナリオの変更なのか、登場人物の性格を変えるのか、舞台自体を変えるのか、どの要素の変更が鍵かは毎回わからないんですけど、一個変えたらダダダっと書ける感じで、モヤモヤがなくなったときは、すごい勢いで書けます。ずっとそれで凌いできました。
編集者とのバトルを通じて
よりよい作品が完成する
――3段階目の「どうしたらよりよくなるのか」という苦しみはどういうものですか。
そうやって苦労の末に初稿を書き上げてしまえば、あとは編集者の目に切り替えるというか、推敲する側になるので、「どうすればよくなるか」というのは、わりと楽しい作業なんです。
ただ、手応えを持って書き上げた初稿に対して、編集者から納得できない赤字が入ると、怒りの感情がわきます。「何言ってるんだ」と(笑)。
特に3冊目の『ブルーマリッジ』は5稿で完成しました。初稿で書いたものから構成がガラリと変わり、登場人物が2人ほど登場しなくなったりもしました。
初稿を出すまでに1年ほどかかり、そのあと完成まで2年近くかかりました。その間の担当編集さんとのやりとりが過酷で、「よりよくするため」にとても時間がかかりました。