――もう最初に描いていたストーリーとは別のものになるわけですね。
ほぼそうです。僕は頑固なので、編集者さんからの変更の提案を飲み込むのに時間がかかります。1回自分がつくった世界をつくり直すというのはかなりしんどい作業です。でも、やらないと本にならない。
読者のことを一番考えているのは自分自身に決まっているだろうとずっと思っていますし、最終的に売れなくてキャリアに傷をつけるのも、その責任を取るのも、出版社ではなく自分です。
それを踏まえたうえで、多くの本を世に出してきたプロの編集者の提案ですから、蔑ろにするわけにもいきません。毎回まっすぐに受け止めて、反映させるかを慎重にジャッジしていく。それが「よりよくする」という部分の作業です。
実際、初稿を書き上げたときは満足度が高いんですけど、それはあくまでも自己満足であって、作品としての質を上げるには第三者の目が必要です。
特に今回の『ブルーマリッジ』で、自分ができる客観視には限界があるんだなということを強く思いました。
これまで出した3作とも、編集者がいなかったら、ここに着地できていなかったです。そのうえで僕は提案に抗いますけど、そうやって抗ったり受け入れたりすることで筋肉が付いてくるんですよね。知らない筋肉がこんなところにも付いたんだと。それが次の作品に生きてきます。
悩みながらもヒットを連発
若い世代に支持されるワケ
――そうして3段階の苦しみを経て生まれた作品は、どれも売れ行き好調です。特に若い世代から支持されていますね。
とてもありがたいことです。ただ、これまでの本だけで一生食えるわけでもないですし、満足はできません。僕はウェブライター時代から、同じことをずっとやっていてもしょうがないと思ってきました。仕事でステージを上げていきたいと思ったときには、いままでとは一歩とは言わないものの、半歩違うことをやっていかないと、この世界で長く生き残れないと思っています。